□第四夜 紫煙のラスト・エンプレス
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4-4 比翼の騎士(2/2)
「手始めに、まずはこの城より兵を一人、連れてゆくがよかろうて」
インプモンの返答も待たず、リリスモンはそんなことを言う。ぐぬぬと唸るインプモンは余程この提案が気に入らないのだろう。眉間にしわを寄せながらぶすっと返す。
「連れてくって、そいつらか?」
グラスに葡萄酒を注ぐレディーデビモンと、給仕をしながらつまみ食いをするバステモンを視線で指して。問えばしかしリリスモンは肩をすくめて微笑んだ。
「ほほほ。嫁入り前の愛娘を傷物にされてはかなわぬわ」
続くそんな言葉は一体どこまで本気で言っているのか。というか。
「……娘?」
「ヒナタ、こいつの言うことは一々真に受けなくていいぞ」
いぶかしげに首を傾げる私に、インプモンは大きな溜息とともにそう言って。そうしてまたぶすっとした顔で天井の暗がりを見上げて、こう続けたのだった。
「で、なら……まさかあの、ずうーっとちょろちょろしてるあいつ連れてけってのか?」
「うむ。そのまさかじゃ。いやなに、余程そなたらが気になるようでのう。悪気はなかろうて」
なんて会話にはまた首を傾げる。一体何の話をしているのかと、言いたげな顔でインプモンの視線を追えばその時、暗がりから静かに浮かび上がるのは黒翼。思わず心臓が跳ねる。それは長テーブルから少し離れた壁際にゆっくりと降り立ち、そしておもむろに膝をつく。
「失礼つかまつった。何分賎しき出自ゆえ礼節には疎く、どうか平にご容赦を」
片膝をついて頭を垂れるそれは、鳥を模した鎧をまとう翼の騎士。片翼は漆黒で、片翼は純白。真紅の仮面が燭台の灯に照る。……って、ずっと隠れて見てたのかこいつ。そりゃインプモンじゃなくても気分悪いでしょうよ。
「某はレイヴモンと申す。何卒此度の旅路に同行させていただきたく」
「と、いう訳じゃ。仲良くやるがよい」
やるがよい、と言われても。なんて強引な。いや、まあしかし。
「あのな、俺はまだそいつ連れてくなんて一言も」
「いいんじゃない別に」
「って……おいヒナタ!」
「だって強そうだし」
少なくとも落ちぶれたチンチクリンの魔王よりは余程。私が言い放ってやればインプモンはぐうと唸って。助けを求めるように視線が彷徨う。無駄なことを。
そして程なく、インプモンは観念するように肩を落とし。こうして、新たな旅の連れが加わったのであった。