□第五夜 赤枯のジャーニー
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5-1 霧中の道標(1/4)

 
「それでは、ご武運を」

 翌日の朝、私たちはレディーデビモンに見送られて城を後にする。正門から続く庭園を抜け、石のアーチの前で一晩中ほったらかしだったベヒーモスに跨がる。

「お待たせベヒーモス。……って、なんかピカピカしてない?」

 荒野の砂埃や戦いの粉塵にまみれていたはずが、黒鉄の車体はやけに小綺麗で。まさか洗車までしてくれていたのか。光沢の眩しい車体を私がしげしげと覗き込んでいると、インプモンが頭をかいて溜息を吐く。

「またかよ……いいっつってんのに。お前も抵抗しろよベヒーモス」
「そんなこと言わないの。今はインプモン一人で乗るわけじゃないんだし」

 そう言って後ろに飛び乗るインプモンにふうと溜息を一つ。そこで、自分の言葉にはたと気が付いて、

「あれ……そう言えば、レイヴモンは?」

 最初の顔合わせ以降一度も見ていないけれど。言いつつ城を振り返り、そんな時。

「お呼びで?」

 ベヒーモスの傍らで片膝をついてレイヴモンが問う。思わず跳ねるように高鳴った胸を押さえながら、私はそろりと振り返る。こいつ心臓に悪い。

「い、いえ……その、どこにいるのかなー、って」
「左様で」
「つーかお前、ずっとこそこそ着いて来る気か」

 インプモンがやれやれと問えばレイヴモンは頭を垂れたまま返す。

「お二人を陰からお護りすべく……何か問題でも?」
「問題っつーか、てっきり表立って的になるもんかと」
「イ、インプモン……」

 確かに正論なのだけれど。好意で着いて来てくれたのにそれはちょっとどうだろうか。というかまだ拗ねてやがるかこいつは。
 そっと、レイヴモンに視線を戻す。すると当のレイヴモンはふむと唸り、

「成る程、確かに」

 なんて、本当に納得したように頷く。どこまで本気なのか。いまひとつ読めない奴である。

「ではそのように」
「……ああ、そうしろ」

 インプモンも半ば呆れた顔でそう返し。うん……まあ、なにはともあれ。

「じゃ、ええと、出発で?」
「おう、そうだな」
「御意に」

 私が問えばインプモンは腕を組んで、レイヴモンは膝をつきながらこくりと、それぞれ頷いて。そしてベヒーモスが内燃機関の唸りで応える。

 嗚呼……なんか気まずい。この悪魔め。

 まあ何はともあれ、こうして私たちは朝日の元、リリスモンの城より旅立っていくのであった。
 
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