□第七夜 灰燼のフロンティア
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7-4 対岸の情景(3/3)
「真贋の見極め――」
思いを馳せるは幼きあの日。畏れと憧れ。色褪せることなき鮮烈なる記憶。
「某がこの役目を任されたのは偏に、ベルゼブモン様と面識があったがゆえのこと」
「面識?」
不意に流す視線はインプモンを撫でる。顔見知りであったようには見えなかったけれど。眉をひそめた私にレイヴモンは苦笑を浮かべる。
「それも無理からぬこと。某もあれから三度の……いえ、元よりベルゼブモン様にとっては瑣事にございましょう」
無力な幼子であったあの頃。鉄の獣が村に現れたあの日。運悪く逃げ遅れ、短い命の最期を悟ったあの時。天災の如き鉄の獣を容易く制した勇姿は、幼子の目にまるで英雄の如く焼き付いて。ありがとう。そう言った自分に振り向きもせず――
「は……何を寝惚けてやがる」
追憶と現実とが重なるような、そんな言葉。レイヴモンは思わず息を呑む。
「イ、インプモン! 大丈夫なの?」
はっ、と慌てて振り返る。小さく笑うその姿を目に、つい声を張る。そんな私にインプモンは気怠そうに身を起こし、いつもの調子でやれやれと肩を竦めてみせた。
「ヒナタこそ大丈夫か。俺の心配するとか。頭打ったか?」
なんて毒吐く。私は溜息を一つ。安堵だか、呆れだか。軽くインプモンを小突いてやる。
「目の前で死なれちゃ寝覚めが悪いの」
「目の前じゃなきゃいいのか」
「私のために出口をこじ開けた後なら、いつでもどこでもご自由に」
「ははは。それでこそヒナタだ」
ひとしきり笑い、そうしてインプモンは息を吐く。移す視線は膝をつく翼の騎士を見据える。知るか、なんて吐き捨てて。
「俺ぁな、ベヒーモスが欲しかっただけだ。つーか誰だてめえ」
ふいと、冷たくあしらう様はけれど、記憶にあるまま。あの時のままで。嗚呼、やはり間違ってなどいなかったのだ。だからもう、構わない。この命は士道の果てに。
「インプモン様、此度の――」
「うるせえ」
片膝をついて頭を垂れる。決意と覚悟はしかし、そんな一言に遮られ。それもやむなしと押し黙れば――けれど、
「罰だ。てめえにはヒナタのお守りを課す」
「……ちょっと?」
「精々お姫様にこき使われろ」
「インプモン!」
意地悪く笑うインプモン。拳を振りかざす私。そして、頭を垂れる騎士。その返答は清々しい程に迷い無く。
「恐悦……至極にございます」