□第八夜 金色のアポカリプス
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8-1 識欲の賢者(1/4)

 
 膝をつくレイヴモンを一瞥し、インプモンはやれやれと溜息を吐く。そうしてゆっくりと立ち上がり、洞窟の外へと足を向ける。

「で、あれが奴らの……嗚呼、エルドラディモンか、めんどくせーのがついてやがんな」
「って、見えるの?」

 インプモンの言葉にもう一度目を凝らす。相変わらず見えるのは時折瞬く光くらいのもので……いや、その下で何かが動いている。ように見えなくもないけれど。よくもまあ判別できるものだと、半ば呆れながらインプモンを見遣る。

「ああ、動く要塞だとか言うデジモンだ。俺も初めて見るけど」

 と、振り向き答えるインプモンにふと、違和を感じる。今まで薄暗い洞窟の中にいたせいだろうか。日の下で改めて見たその顔、その深緑の瞳には、見慣れぬ何かを見るような奇妙な感覚を覚えた。

「どうかしたか?」
「あ……や、何でもない。ええと、それで――」

 不意に過ぎる感情は、どうしてだろう、歓喜にも似て。自分自身訳が分からず、頬をかいて話題を変えるようにまた戦場へ目を遣る。インプモンは一度だけ首を傾げ、しかしすぐに視線を移す。

「まあ、何よりまずは体を取り戻さねーとな。あそこだろ?」
「うん。……って、え、何で?」
「大体聞いてたし、大体思い出した」
「聞いて……え?」
「俺にもよくわかんねーから気にすんな。とにかく、大体の状況は把握できてる」

 そう、言うだけ言ってこちらの言葉も待たずに踵を返し、また洞窟の奥へと戻る。困惑する私を尻目にインプモンはベヒーモスの車体を二度三度と小突く。

「ベヒーモス、行けそうか?」

 問えば返ってくるのは低く小さな唸り。私は戸惑いながらも駆け寄る。そう言えば私は見ていなかったけれど、

「え、ベヒーモスも……大丈夫なの?」
「ああ、でもこいつは自己修復できる。心配すんな」

 車体を軽く叩きながら振り返る。自己修復、って。いや、ダークドラモンのようなデジモンもいるのだ。バイクの形をした生き物だと言われても今更驚きはしないけど。ともあれ無事であるならと息を吐く。

「ならいいけど……でももうちょっと優しくしてあげたら?」
「あん? 大丈夫だってこのくら、い」

 インプモンの手がまた一度車体を叩く。けれど響いたのは予想外に大きな音で。黒鉄の一部が跳ね上がるように形を変える。私はびくりと震え、唖然とその様を見つめるだけだった。
 
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