泡沫の夢
□散歩日和
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「守りたいものは、」の続きっぽいもの
ようやく歩けるようになった息子は、よちよちと覚束無い足取りで中庭を歩き回る。
最近は色々なものに興味を持っており、一時も目を離せなくなっていた。この前なんか手入れした後にうっかり床に置いたままにしておいた剣に触ろうとしていた。あと一瞬気づくのが遅ければ、息子は大怪我をしていただろう……本当に気をつけなくてはならない(姫にも怒られた)。剣に興味を持ってくれるのは嬉しいが、さすがにまだ持たせるわけにはいかない。
「うー、あ!」
「あぁ、花が綺麗だな」
「あい!」
中庭で咲いている青紫の花を指差して、息子は嬉しそうに笑う。そしてそのまま花壇に突っ込もうとするところを抱き上げて止めた。もっと近くで見たかったのだろうけど、庭師が丁寧に世話をしてくれている花を潰されるわけにはいかない。
俺の腕の中で息子は不満げな声をあげる。そんな息子をあやしながら、俺は花を一輪手に取った。
「ほら、いい香りだろう」
「あう!」
「あ、」
花の香りをかがせようと顔に近づけてやると、息子は小さな手で花を握った。花弁の部分を思いっきり。……見事に花は潰れていた。
息子はきょとんとした顔で、潰れてしまった花と俺の顔を交互に見る。仕方なく、俺はもう一輪摘み取った。今度は茎の部分を差し出しながら「そっと持つんだぞ」と息子に伝えて。
息子は俺の言うとおりにそっと茎の部分をを掴んだ。ふわりと香る優しい匂いに顔を綻ばせ、俺を見上げて笑う。そして……、
「こら!これは食べ物じゃない!」
「う?」
その香りに誘われて口に入れようとした息子を慌てて止める。食べても毒ではないが、美味しくはないだろう。まったくわかってない様子の息子に苦笑する。
「せっかくだから、母さんにも見せてやってらどうだ?」
「まーま?」
「きっと喜ぶぞ」
「あい!」
花をしっかりと握り、きゃっきゃと朗らかに笑う。部屋に着く頃には萎れてしまいそうだが、それでも彼女は息子からの小さな贈り物に喜ぶだろう。そんな姿を想像して自然と笑みが零れる。
「ぱーぱ、」
「ん?…あぁ、早く姫のとこ行こうな」
「う!」
息子にせがまれ、少し早足で彼女の部屋へと向かう。今度は3人で花畑に出掛けるのもいいだろう。そんなことを考えながら、澄み渡る空を見上げる。
明日もきっといい天気だろう。