泡沫の夢

□守りたいものは、
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※アヴィと主人公の間に息子生まれてます














小さくて儚くて、触れれば簡単に壊れてしまいそうで。それでもそこには確かな命を感じられて。
生まれたばかりの小さな小さな息子は、姫に抱きかかえられたままその小さな手を俺に向かって懸命に伸ばしていた。俺がそっと手を差し出すと指をきゅっと握って、楽しそうに笑っていた。俺もつられて笑い返すと、そんな俺を見ていた姫がこんなことを言い出した。


「ねぇ、アヴィもだっこしてみたら?」
「は!?お、俺がか!?」
「この子だって、パパにだっこされたいって思ってるよ。ねぇー、そうだよねー?」


姫の言葉にまるで同意するように息子は笑い声をあげ、俺を求めるように手を伸ばす。
先程のように指を掴ませたりはしてきたが、この腕に抱くことはまさに初めてのことだった。狼狽える俺のことなど気にもとめず、姫はほら、と息子を俺の腕に抱えさせた。


「こっちの腕でちゃんと頭を支えてあげてね。反対の手でお尻を支えるようにして……全身を使ってだっこしてあげてね」
「う……こ、こうか……?」
「そうそう」


初めてだっこした息子は思っていた以上に柔らかくふにゃふにゃとしていて、不安定で脆く感じた。そしてそれ以上の愛しさとあたたかさに心が満たされていった。……しかし、


「うぅ……ふぇ、えええええんっ……」
「なっ……ど、どうしたんだ!?な、泣くな……っ、姫!」
「あらあら」


俺の腕の中にしっかりと収まった、かと思うと、息子は居心地悪そうに体をよじり泣きわめきだした。俺は息子を落とさないようにするのが手一杯で他にどうすることもできず、姫に助けを求めることしかできなかった。姫は慣れた手つきで息子をだっこすると、途端に息子は泣き止んだ。


「よしよーし、泣かなくても平気だよ」
「……そんなに俺の腕の中は嫌だったのか」
「ふふ、違うよ。アヴィ、結構緊張してたでしょ」
「う……そ、それは……」


まさに図星だった。今まで生まれたばかりの赤子と触れ合う機会などあるはずもなく、どのように接すればいいのかわからなかった。ほんの少しでも力を入れれば簡単に壊れてしまいそうで、そっと指先だけで触れることしかできなかった。


「アヴィが不安とか緊張したりすると、赤ちゃんには全部伝わっちゃうの。まずはアヴィがリラックスしなきゃ」
「けど……どうしたらいいか、わかんねぇよ……あまりにも小さくて、か弱いから……」
「アヴィなら大丈夫。わかっているはずだよ」


だって、アヴィの手は守るための手でしょ。


そう言って、姫が優しく微笑んだ。そしてもう一度俺に息子を抱かせてきた。今度は姫も一緒に、二人で包み、守るように。


「アヴィに抱き締められるとね、いつも安心するの。触れるだけで、不安な気持ちは全部吹き飛んじゃうの。それはこの子も同じだよ。だってアヴィの手は、こんなに優しいんだもの」
「姫……」


腕の中の息子は、今度はぐずることなく安心しきった表情で眠りにつこうとしていた。手を伸ばして俺の服を掴むと、そのまま小さな寝息を立て始めた。ほらね、と姫が笑う。


「やっぱりアヴィの腕の中は安心するのよ。誰よりも私達を守ってくれているのだから」
「姫……」


愛しさが溢れ、たまらずに姫を抱き寄せる。もちろん息子を潰してしまわないように……二人まとめて包み込んだ。


「姫……ありがとうな、俺と出逢ってくれて」
「ううん、私の方こそ……アヴィと出逢えて、本当によかった」
「それに、子供も産んでくれてありがとう……。守るものが増えるって、こんなにも幸せなことなんだな」
「アヴィ……」


姫は少し照れくさそうに、そして幸せそうに微笑った。視線が絡み、引き合うように唇を重ねる。何度も何度も、魂の奥底にまでこの想いを刻みつけるように。

何よりも守りたい存在。そしてかけがえのない小さな命。必ず守ってみせると誓いを立て、腕の中の確かな存在をしっかりと抱き締めた。




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