□第三夜 黒鉄のナイト・メア
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3-4 日向の疾走(1/1)

 
「速度が上がってきたな」
「みたいね。って、インプモンがやってる訳でもないの?」

 ゴツモンに貰ったゴーグルを片手でかけ直し、頬に当たる風が次第に強くなるのを感じる。インプモンは後部座席にくくりつけたリュックの上で首を伸ばす。また落ちても知らないからね。

「ああ、それなんだけどさ。これ、ヒナタじゃね?」
「私? なにが?」

 インプモンが少し声を張る。風の音が強くなってきた。

「ベヒーモスは乗り手の意思を汲み取るんだ。でも……町に立ち寄ったりは俺よりヒナタの意思なんじゃねーかなー、って」
「私の……?」

 なら今は、私が早く城へ向かおうと思ったから? でも――

「どうして私の?」
「さあな。ベヒーモスの気まぐれか、あるいは……」

 躊躇うようなインプモンの口調。ふと、私はインプモンの言わんとしていることを察して、口を挟んだ。

「やめてよ」

 とだけ。インプモンもそれ以上は言おうとしなかった。

 あるいは――私がやはりテイマーだから、とでも? 馬鹿馬鹿しい。そんなこと、あるわけがない。

 ふいと、首を振る。インプモンは少し困ったように頭をかいた。
 そしてお互い黙り込んだままの、そんなちょっぴり気まずい時間。――しかしその沈黙が破られたのは、それから程なくだった。

 あ、とインプモンが声を上げる。

「ヒナタ……スピード上げすぎたかもしんねえ。よく考えたら目立つなこれ」
「私のせいだって言いたいわけだ?」

 後方にちらりと目をやればわだちから高く立ち上る砂煙。その視線を前へ戻せばぽつりと空に浮かぶ黒い影。

 昨日ベヒーモスがあれだけぶっちぎってやったというに。もう追いついてきたというのか。

 ぎゅ、と。操縦するわけでもないがハンドルを握る手に力を込める。姿勢を低く構えて、ふう、と息を吐く。背後でインプモンが困惑するような声を上げた。

「あれ? ヒ、ヒナタ?」

 どうやら先のインプモンの考えは間違っていなかったらしい。私の意思を正しく汲み取ったベヒーモスが、うおんと唸りを上げる。

「つかまって、インプモン」
「え? あ、はい」

 なぜか敬語で素直に従うインプモン。私は、驚くほど冷静に声を張った。あるいは、とうに冷静さなど無くしていたのかもしれない。

「いくよ……ベヒーモス!」
「ヒ、ヒナタぁ〜!?」
 

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