□第四夜 紫煙のラスト・エンプレス
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4-1 飛天の淑女(1/2)
「ヒ、ヒナタあぁ〜!? 本気かおい!?」
「舌噛むよインプモン」
悪路にガクガク揺られながら喚くインプモンに、私は至極冷静に言葉を返す。本気も本気。大マジだとも。
逃げ回ってばかりいてはいつまで経ってもリリスモンの城へ辿り着けない。そもそもそこがゴールである保障さえないのだ。余計なことにかかずらっている隙なんてない。
こうなればなにもかも、ぶっ飛ばしてぶっちぎってやる!
なんて、そんな私の思惑を察したようにインプモンが情けない声を上げる。覚悟を決めろヘタレ魔王。
「行くよインプモン!」
うおんと、インプモンに代わって応えたのはベヒーモスの唸り。フルスロットルで内燃機関が雄叫びを上げる。うん。あなたは素直でよろしい。
前方、飛来する敵を見据える。翼を背負った人影は次第に降下する。
降りた?
真っ向勝負をする気か。よほど腕に自信が……。
「インプモン! 相手のレベルは?」
「え? あ、ええと……!」
私の背中につかまりながらインプモンは首を伸ばす。迫り来る敵を視認すると声を張り、
「か、完全体だ。レベルX!」
ってことは最初にベヒーモスが倒した奴と同等か。それなら……!
再度ハンドルを握る手に力を込めて、乗り手の意思を汲み取るベヒーモスに自分自身の戦意を伝えるべく静かに息を吐いて――
そんな折、首を伸ばしていたインプモンの頓狂な声が耳元で聞こえる。
「あれ? でもあいつ……なんで?」
「え? なに、インプモン?」
問い返すが早いか、ゆっくりと地に降り立った翼の人影が、すう、とおもむろに手を挙げる。途端に何処からか生まれ出づるのは、無数の黒い影。
あれは……コウモリだ。無数のコウモリが人影から生まれ、その頭上で規律立った編隊を組み――
「待てヒナタ! 止まれ! ベヒーモス!」
「え? わ……うわっ!」
奇妙な文様を描くコウモリの編隊を目にした途端、インプモンが叫ぶ。それに答える間もなく急停止するベヒーモス。思わずつんのめり、何がどうなったのかと、ゆっくり顔を上げる。
そうして視界に飛び込んだのは前方、今やほんの数十メートルに迫ったそれ。
凛と立つのは黒衣を身にまとった翼の女性。青白い肌に銀の髪。その姿はまるで天使とは真逆の――
インプモンが静かに言う。
「どうやら、敵じゃないらしい」