5周年更新予告作品試し読み
□@-NiGHTMARE:DiTHERiNG-
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◆プロローグ
はあ、と零した吐息は降り注ぐ水の音に紛れて消える。溜息だったろうか。後悔はしていないはずなのだけれど。時々、自分の気持ちさえよく解らなくなる。
この水が汗ごと悩みも流してくれたらいいのにと、そんなことを考えてふと笑う。花を模した銀の蛇口を捻る。シャワー口から細く水が漏れて、濡れた髪から水滴が落ちる。
こんなことを考えるのもきっと今が平和である証拠だろう。たとえそれが、戦いと戦いの間にある僅かな小休止に過ぎないとしても。
神経が過敏になっているのだろうか。乳白色のタイル床に跳ねる飛沫を眺めながら小さく息を吐く。そうして――不意に胸を圧迫する謎の感触に、私はびくりと震える。
声にならない声が喉の奥に反響する。柄にもなくきゃあと叫びそうになりながらも、どうにか堪えて息を飲む。
振り返る。ずびしっと、手刀を見舞って目を細める。てへっと舌を出す闖入者にまた溜息を吐く。
「何してるの、マリー?」
それもまた、平和な朝の一幕であった。
【-NiGHTMARE:DiTHERiNG-】
-episode R [Reunion]-
『烏玉のペリルーン』
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