-花と緑の-

□第四話 『花と伝説の……』
20ページ/21ページ

シーンY:預言の山へ(3/3)

 
「えぇ?」

 はあ、と大きく息を吐き、その場に座り込む。ヌヌの言葉に、二つの目玉が見詰める先へ目をやる。平原の先に見えたのは聳える山。三角形を上からべちゃっと潰したような、台形の小さな山だった。

「あの山が何?」
「首刈りの峰だ」
「……首刈り?」

 言われて、何だか聞き覚えのある単語に記憶を探る。何だったかなそれ。割と最近聞いた気がするんだけど。それもRPGだったら文字色変えて表示されるような奴だった気がするんだけど。そう確か、もじゃもじゃさんが言っていた――

「……って、預言の山!?」
「そうだ。見ろよあの形!」

 ヌヌを見て、また山を見る。首刈りの峰……首の無い山? 言われてみれば確かに、台形のその山は山頂部分をちょん切ったような形ではあった。

「ハナ、オイラ思い出したんだ。ほら、流れ星を見たって言ったろ?」
「あ、うん、確かに言ってたけど」
「ああ、この方向だ。間違い無い」

 森を振り返って確信するように力強く頷いてみせる。あたしはまだイマイチ状況に着いていけてないんだけど。しかしヌヌは構わず語る。

「あの日確かに黄色い流れ星を見た。夜空を見ながら物思いにふけていたんだ」
「なんで?」
「いや、そこはいいじゃないか。ヌメモンだってふけりたくなる夜ぐらいあるんだよ。とにかく、星の少ない暗い夜だった」

 あたしの茶々にもめげずにヌヌは続ける。何かそういう雰囲気に入ったみたいなのでこれ以上茶化すのは止めてあげることにした。

「流れ星が落ちたのは確かに村からこの方角だった。さっき上から確かめたし、間違い無いはずだ。ハナ、もう一個オイラが言ってたことは覚えてるか?」
「え? そう言われても……どれだっけ?」
「ほら、預言だよ。聞いたことある気がするって」
「ああ、何か言ってたね、そんなこと」

 ウネ子ちゃんちにお邪魔していた時だったな。確かにそんな話をした。パンケーキとクッキーの味のついでに覚えていた。あの時は「よくありそうな奴だから」で済ませたと思うけれど。

「長様だ」
「長様? え、バロモンさん?」
「そうだ。長様も未来を見通す力を持ったシャーマンなんだ」

 森はシャーマンだらけだな。という茶々は呑み込む。

「流れ星を見たあの夜、長様の家から声が聞こえたんだ。いびきに混じって聞こえてきた言葉が、あの預言にそっくりだった!」

 拳を握って熱く語る。それは寝言じゃなかろうかと、そのくらいはそろそろ突っ込んでもいいだろうか。

「二人のシャーマンが告げた預言! 世界を救う為の“黄色い星”はあの山にあるんだ! ハナ、希望が見えてきたな!」
「え? あ、ああ、そうね!」

 考えていたら突っ込むタイミングを逃す。逃した所為で、続く言葉には深く考えもせずに答えてしまう。そうねって言っちゃった。あたしの言葉にヌヌがにかっと笑ってふんっと鼻息を噴く。あ、あれだな。これ行く感じになったな。胡散臭い預言の為にだだっ広い平原をてくてく歩いてまあまあ遠くに見える山まで行くのは凄く面倒だったが、だからと言って代替案はまるでないので嫌とも言い辛かった。

「ようし! そうと決まれば、行こうぜハナ!」
「あ、ええと……うん」

 言い訳も思いつかなかったので、仕方なく頷く。張り切ってぬりゅぬりゅ進むヌヌの後を追い、あたしはとっても広い平原をとぼとぼと歩き出す。丸腰で、食料も無く、追っ手はいつ来るとも知れず、頼れるものは己とヌメヌメのみであった。改めて考えると泣きたくなるような状況だった。

 そんなこんなでこうして――相変わらずあたしの意思とは無関係に否応なく、一寸先の闇の中を手探りで進むが如きふざけきった新たなクエストが、始まってしまうのであった。



>>第五話 『花と縫包の乱 前編』へ続く
 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ