□エイプリルフール企画'16
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Bと Lと。


 心地のいいまどろみの中で、お前の声を聞いた気がした。

 “ルー”。夢と現の狭間で名を呼べど、応える声など返ってくるはずもない。それでも、呼び掛けずにはいられなかった。
 瞼の裏に浮かぶお前の姿はいつも凛として、そう、思えば弱みなどこれっぽっちも見せてはくれなかった。
 それが、少しだけ悔しくて、少しだけ寂しかった。

「――何をしているんだい、ベル君?」

 優しい声にそっと瞼を開く。寝ぼけ眼にその姿を認め、どうやら夢ではないなと息を吐く。そうして、思わずぷいと顔を背ける。

「見りゃわかんだろ、昼寝だ昼寝」
「ふふ、とうに夕刻だよ」
「るっせぇなぁ」

 決して寝心地などよくはない単なる平たい岩の上で、ごろりと寝返りを打ってなお背を向ける。放っておけと背で言い捨てる。けれど――不意に春風のような香りが鼻孔を擽り、かと思えばやたらと近くに気配を感じて思わず振り返る。

「……何、してんだよ」

 首だけ向ければ真横に寝転びにこりと微笑むルーのその姿が視界に飛び込む。電脳核が跳ねるような錯覚を覚え、小さく息を飲む。

「見ればわかるだろう、添い寝だよ」

 などと、こちらの気も知らずからかうようにそう言って、楽しげに笑う。いや、何もかもわかった上で、だろうか。すべてを見透かすような目が、澄み渡っているのにあまりにも深く底の見えない湖にも似たその目が、ただ静かに戸惑う顔を映して佇む。そこに映る間抜け面が他でもない自分だと気付くには、少しの時間を要した。

「どうか、したかい?」
「っ……なんでもねえ」

 慌てて顔を背ければ、ふう、と吐息が零れる。

「怒っているのかい?」
「……あ?」
「いや、最近リリーとよく一緒にいたから、ヤキモチを焼かせてしまったかなって」
「な……っ!? 馬鹿か、んな訳……!」

 なんて、思わず上擦った声を上げて振り返る。ルーは、ただ楽しげな笑みを浮かべていた。
 頭に血が上っていくような、血の気が引くような、熱と寒気がないまぜになった不思議な感覚。微笑を浮かべるルーのその顔に、またいつもようにからかわれたのだとようやく気付く。

「てめぇ、人を馬鹿にすんのも大概に……!」

 気恥ずかしさと、少しの情けなさ。いつもいつもいいようにされっぱなしだと、頭の中はぐっちゃぐちゃのまま、考えもなしにつかみ掛かるように詰め寄る。詰め寄って――そうくると思ったよ、とでも言わんばかりのルーにまた、自分で自分が嫌になる。

「大概にしないと、どうされてしまうのかな?」
「どう、って……いや……!」

 横たわるルーと、その上に乗り掛かるような恰好になってしまった自分。傍から見るならまるで押し倒してしまったようではないかと、思い至った頃には時既に遅すぎた。

 ふふ、とルーが微笑む。そっと手を伸ばし――かと思えば視界がぐるりと回り、気付けばあっという間に押し倒し返されてしまう。

「っ……! お前……!?」

 嗚呼、悔しくて、情けない。
 いつもいつも、こんな単純な力比べでさえお前には勝てやしない。

「難しく考えることはないさ」
「何を……」
「身を任せればいい。答えは君の心が知っているはずだ」
「っ! ルー、俺は……」
「言わなくていいさ。わかっているよ」

 次第にルーの顔が近付く。吐息も、電脳核の鼓動さえはっきりと聞こえるほどに。
 嗚呼、やっぱりこいつには、敵わない……。

「さあ……」

 そうして二つは、一つとなる――


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――終幕。


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