□第十四夜 翠星のアジュール
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14-4 遊星の志士(4/4)

 
 ベリアルヴァンデモンの言葉にしかし、誰より怪訝な顔を見せたのは外ならぬ翡眼の王だった。一体何の話をしてやがると、振り返りその姿を目にして、益々眉間のしわを深くする。
 空に浮かぶのは無数の影。その幾つかが他の影を置き去りに先行し、戦場へと飛来する。あるものは高い空から、あるものは氷原を滑るように、あるものは氷原の下を潜行して。
 光の翼の紫紺の竜が氷原に降り立つ。背の砲を推力に深紅の竜が来たる。氷を貫き凍結した湖の中から金の海竜が浮上する。

「これはこれは……!」

 馬鹿丁寧なお辞儀で迎える様はまるでパーティのホスト。ベリアルヴァンデモンは突然の闖入者を物珍しいものでも見るように眺めて、にたりと笑う。

「誰かと思えば負け犬諸君、ご主人様の危機に馳せ参じたのかね。健気なことだ」

 空と地と海の竜たちを睨み据え、侮蔑を込めてその名を呼ぶ。自ら名乗った、身の程を知らぬご大層な名を。

「なあ……ゼブルナイツ!」

 嘲れば紫紺の闇の竜――ダークドラモンが鼻を鳴らす。

「負け犬、か」

 深紅の暴竜・カオスドラモンが肩をすくめ、金の兜の海竜・メタルシードラモンは静かに魔王を見据える。

「しかしまた、随分と殺しそびれたものだな。裏切り者のお友達のお陰かな?」

 空に浮かぶ影。徐々に近付くゼブルナイツの兵たちを黄土色の目に映し、わざとらしく溜息を吐く。そんなベリアルヴァンデモンにダークドラモンは寒空を仰ぎながら、

「爆発の直前に空高く打ち上げたらしい。ただの花火に終わったな」

 代わりに空高くいた自分は酷い目に会ったが、と自嘲する。

「つくづく格好がつかんなあ」

 くつくつと、笑う様はどこか嬉しげに。ダークドラモンはただただ暢気に頭を掻く。

「それで? くくく、死に損ないが今更幾ら集まろうと――」
「ああ、心配は要らん。ただの物見遊山だ」
「ほう?」
「折角拾った命だ。結末くらいは見届けておこうと思ってな」

 なんて、言い放つダークドラモンからは、言葉の通り戦意をまるで感じない。本当に――

「ぷ、くはっはははあ! 聞いたかね!? とんだ助っ人だなあ! ええ!?」

 笑う。笑う。これほど愉快なことは他にないとばかり。呆れ返る翡眼の王の溜息もどこ吹く風。

「ならば存分に見届けるがいい! なあに、手間は取らせん。くくく、嗚呼……時間切れ、だ」
 

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