□第十五夜 極彩のネビュラ
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15-1 氷天の決闘(1/4)
悪夢の魔王が指差す先には翡眼の王。時間切れと、そう言ったか。醜悪な笑みに歪むその顔は、絶望を肯定する。
「くはは! 見付けた……見付けたぞ!? さあ、かくれんぼは仕舞いだ!」
勝ち誇る。歓喜に沸く。虫けらを踏み潰すこの時をどれほど待ち侘びたかと、黄土色の目が狂気に澱む。
「そんな……ここまで来て!?」
マリーの声はもはや悲鳴にも近い。絶望を引く悪夢の魔の手に怯えるように。
「ヒナタ! 早くどうにか――」
ベヒーモスの上で詰め寄るマリーに、けれど私は応えなかった。応えられなかった。
「……ヒナタ?」
マリーの声は右から左へ。清流のように滞りなく流れてゆく。聞こえていないわけではない。ただ、私の意識は彼女へは向いていなかった。
私の見詰める先。氷天に佇む、夜闇の翼と翡翠の眼の王。その姿に目を奪われていたのだろうか。大鎌を振り上げる目前の死神にさえ、余りにも穏やかに笑うその姿に。
視線が静かに交う。翡翠の眼が私を遠く、けれど真っ直ぐに映して、優しく微笑みかける。
嗚呼、そうだ。きっともう、分かっていたのだ。
「マリー」
「え?」
「大丈夫」
それだけ言って、また空を見上げる。多くを語る必要はない。その結末を、見届ければいい。
「どうした。やけに大人しいな」
微笑を浮かべ、問うたのは翡眼の王。勝利を確信していたベリアルヴァンデモンの目からは狂喜が薄れる。
「何だ……」
ぽつりと、譫言のように零す。
「何だこれは……何だと、聞いているのだ!? メルキューレモン!?」
唐突に口にしたのは傀儡と呼んだ英雄の名。レイヴモンに匿われた、見えぬその姿をそれでも追って、黄土色の目がぎょろぎょろとうごめく。
「ああ、ばれてしまったか。残念」
どこからともなく答える声はメルキューレモン。声を辿り、目を向ければ姿を現す。姿隠しの翼の主・レイヴモン。その足元に横たわる長髪の少年。そして、傍らに立つのは鏡の貴人・メルキューレモン。肩をすくめ、小さく息を吐く。
「盗られたものを、返してもらおうと思ってね」
笑う声は次第に弱く、か細く。やがて鏡の肢体が光を纏い、その姿が人のそれへと変わり、ふらりとよろめく。
「一矢くらいは、報いたかったが……」
レイヴモンに支えられたまま、脂汗を浮かべて不敵に笑う。
「貴様ぁ……!」