Guitar

□例えばこの一箱で、
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「どっちにする?」



そう言って悪戯な笑みを浮かべた君の指先の朱がひどく印象的で、





久しぶりのオフだったから君を家に呼んでくつろごうと思ってたら、

タイミングよく君から喫茶店へのお呼び出しメール。


彼女は無駄を酷く嫌う性格の人間だから、
それは句読点の一つも無い簡潔なものだったけれど。





「ごめんの、遅れて。」



「大丈夫よ。呼んだのは、私。」



喫茶店に入ると彼女の姿はすぐに目に入った。

一際目を引く綺麗な長い黒髪に黒いカットソー。
手に持ったコーヒーカップの白が青白く見えるほど黒を基調とした
いつも通りの彼女の服装。



「コーヒーで良い?」



「うん。」



「ん。すみません、」



コーヒーひとつ、そう言葉を紡ぎ出す赤い唇を見つめる。


壊してしまいたい、なんて、破壊衝動。



「はる、」



「何?」



「どっちにする?」



そう言って彼女がテーブルの上に並べたのは二つのタバコ。

彼女がいつも吸っているKOOLとわしがいつも吸っとるMARLBORO。



「どっち、ってわしいっつもMARLBOROよ?」



「知ってるわよ、そんなこと。」



刺のある声、話し方。
でも彼女のそれは酷く甘く柔らかく、人を傷付けられないことくらい、わしは知っとる。



「どっちを吸うか、じゃなくてどっちにするかを聞いてるの。

はるなら、解るでしょう、?」



解るでしょう、なんて言われてもピンとこないわしの頭に数日前の会話が甦る。



「…そういうこと、なら、」



こっち、そう言ったわしの指先が引き寄せたのは


KOOL



「覚えてたのね。」



「思い出したんよ。」



「MARLBORO、なんて言ったら別れてやろうかと思った。」



「大袈裟。」



「冗談よ。」



(男はロマンスでしか愛を買えない、なんて、ね。)





ねぇ、はるは知ってる?


何を?


KOOLとMARLBOROの名前の由来。


知らん。


KOOLはKeep Only One Love
MARLBOROはMan Always Remember Love But Only Romance Only


頭文字なん?


そうよ。だから私はKOOLを吸うの。
傷付きたく、ないから。

MARLBOROを吸うはるはロマンスでしか愛を買えないのね。


知らなかったんよ。
ひとつの愛を貫くのもええと思うし。


はるのその言葉はいつまで貫けるかしらね。
忘れた頃にもう一度聞いてあげる。











例えばこの一箱で、

(僕から君への想いが保証されるのならば、)









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