Clap*

□腕時計の束縛。
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しゃらん、しゃらん、 しゃらん。



君の手首で揺れ動く、甘い金属音。



かつん、かつん、 かつん。



君の足元で奏でられる、軽い足音。






「それ、五月蝿い。」



沈黙を破るように言った俺の一言は、真夜中の駐車場にひどく響いて、



「仕方ないじゃない。
彼から貰ったんだもの、着けてあげないと可哀相でしょう?」



俺のそれ、と云う言葉をどうやらヒールではなく、腕時計のダイヤのチェーンだと理解したようで。



「彼氏なんていたんだ、なに、血塗れたカラダでも抱いてもらってるわけ?」



「以外ね、貴方みたいな人が私なんかに嫉妬なんてすると思わなかったわ。」



朱い唇が弧を描き、作り出される艶やかな笑み。



「自意識過剰女、」



「冗談に決まってるじゃない。
くれたのは、これからサヨナラする、彼、よ。」



そう言って銃を持つ手を変える。
右手から、左手に。

君の利き手。

ダイヤのチェーンが銃にあたり、軽い音。



「少し黙ったら、
来たよ、あんたの彼。」



黒く長いリムジンの数十メートル先からいくつかの足音と不愉快な声音。



「お先に。」



そう言うと、銃を持つ手を後ろ手に軽い足取りで駆け出して行く。



「…馬鹿。」



シナリオも作戦もなにもかも無視した彼女の行動に驚きを通り越して呆れを感じる。

向こうから一つずつ増えた足音と笑い声が聞こえる。



−でも社長は、−



呼ぶな、その綺麗な声でそいつの名前を。
呼ぶな、その不愉快な声で彼女の名前を。



「−、ありがとうございます。凄く気に入ってるんですよ、この、」



腕時計。
彼女がそういう直前、ぱちりと、そう、大きな瞳と目が合う。

それが合図。



割とゆっくりとした動作で彼等の前に出ていくと、
そこには腕時計を見せると同時に社長の肩を撃ち抜いた彼女と、その社長に慌てるさながら美人とも言えない秘書。



「やあ、社長。」



「別所、お前、何故…」



「金を返して貰いに来たんだよ。
あと、女もな。」



俺の言葉にハッとした社長は、今さっき自分の肩を撃ち抜いた女を見る。



「遅かったじゃない、別所。待ってたのよ?」



朱い唇が弧を描く。



「金も女も、借りたら返せっつってんだよバーカ。」



するり、と彼女の細い腕が俺の腕に絡み付くのをスーツ越しに感じる。



「返せないないなら、」



沈んで詫びてもらおーか。


俺は社長に、
彼女は秘書に、

弾丸を2発ずつプレゼント。



「…汚れたわ。」



「たかが血だろ。洗えば落ちる。」



「これはどうするのよ。」



「下っ端のやつだって死体沈めるくらいのこと出来んだろ。」



「そうね。」



かちゃり。
細くて綺麗な指先が腕時計を外す。



餞別よ。



そういってそれを投げ捨てる。



「新しいの、買ってよね。」





(そう、それは、)
−腕時計の束縛。−


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