夢喰い赤ずきん

□第一章
1ページ/5ページ



 木々が鬱蒼と生い茂る森の中、そこをためらう事なく進んでゆく少女がひとり。深緑の森は霧が立ち込め奥深く続いて、入る者を楽しげに惑わせる。

しかし赤いフード付きマントを被った金髪の少女は、この森に狼や熊が出るという理由だけで急いでいるのではない。


少女は人間を警戒していた。

もう少し詳しく言うと、村の人間をだ。


動物は基本的に進んで人間の前に姿を現さない。だが森の獣に出くわそうとも、彼女には人間に見つかってはならない理由があった。


 少女…アンナ=レッドは、森に住んでいる祖母に食料を届けに行く途中だった。

飢饉で村の食料が不足したため、アンナの住んでいるような貧しい土地では忌むべき悪習が行われた。

口減らしのために、アンナの祖母は森に捨てられた。文字通り“姥捨(うばすて)”に等しい行為だった。

村の老人や病人は次々に森へ捨てられた。

横暴だとは思ったが「村」社会で村に逆らうことは死を意味する。

村の方針に一戸の家が逆らえる筈もなく、アンナと母は泣く泣く祖母を差し出した。

事情が事情なので致し方ない事とはいえ、長年共に暮らしてきた祖母を見捨てるのに耐え兼ね、母はアンナに食料を運ばせた。

『アンナ、必ずおばあさんに届けてね。

村の人に見つかっては駄目よ』


言われずともそのつもり。父を早くに亡くし祖母に可愛がられたアンナは、地元の人間なら誰もが恐れて近寄らないこの森に恐怖するでもなく入っていったのだった。

全ては大好きな祖母のため。

絶対に死なせはしない。



.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ