ケロロ軍曹

□その手をつないで
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「ふふっ。」
ふと、隣のブロックに座っている夏美がクスリと微笑む。
「夏美?」
問い掛けると、彼女は美しくも、金糸雀色の火の光の映える、オールドローズの髪を、首を傾けて軽くなびかせた。
「ギロロの『よいではないか〜』思い出しちゃった。」
あ…あれか…
ケロロにアドリブで回されたうえに、それがメールに「只者じゃない」とよく分からん感性に勘違いされ、回された。
「あの子達…今頃どうしてるかな。」
そう言うと、夏美は深海のような夜空を見上げる。
「お前があいつらに家族≠教えたんだろう?なら心配する事はない。」
そして俺は、その夏美を横目に見上げる。その横顔は、どこか哀愁を漂わせていた。
「…寂しいか?」
「ちょっとね…」
いつもなら虚勢を貼って否定するのに、本心を明かしてくれて嬉しかった。
「マロン星には宇宙船でも使えば行ける。別に、永遠に会えないわけじゃない。」
「…ありがと、ギロロ。」
こちらを向いて、夏美は優しく微笑んだ。自分の顔が急激に火照っていくのが分かる。見られまいと、慌ててそっぽを向いた。
照れ隠しから話を逸らそうと考えていたら、丁度焼き芋の頃合いが近付いていた。
「夏美、焼けたぞ。」
銛で魚を取るように、最良の刹那で焼き芋を火の中から取り出す。
「わあ…!」
夏美の幸せそうな顔が、俺を幸せにする。
焼き芋をほっくりと割ると、甘い香り、輝く黄金(こがね)色、完璧な火の通り。
正しく「究極」にて「最高」。
「実はね、家帰ってすぐ寝ちゃったからお腹減ったのよ。」
夏美は恥ずかしそうに笑いながら、俺から焼いたそれを受け取った。
あれだけ頑張ったのだ。無理もないだろう。
「そうか。」
俺はそれだけ相槌を打つと、彼女は焼き芋に口をつけた。
「おいし〜!」
その笑顔に、自然と俺も顔が綻ぶ。彼女は俺に会いに来たわけじゃない。だが、俺の焼く焼き芋を食べに来てもくれたのだ。
それだけでも、幸せだ。
「そういえばさ、」
「ん?」
「あんたあの時私の事、プリンセスよりまるで母親だなって言ったわよね。」
夏美と顔を合わせるのが恥ずかしくて、俺は焚き火を眺めたまま話を聞いた。
「それならあんたは、手下というより父親みたい!」
「は!?」
さらりと言った夏美の台詞に、思わず声が裏返る。
あ、それはつまり、というか、仮定形では、お、俺と夏美が夫婦!?
「…どしたの?」
夏美に呼ばれてやっと気付いたが、俺は何時の間にかつっ立っていた。
「い、いや、何でもない!」
慌てて俺は腰を下ろす。

「…このオイモ、あの子達にも食べさせたかったな。」
「そうだな。次に会う時は、焼いてやろう。」
見上げれば満天の星、耳を澄ませば虫の音。
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