ケロロ軍曹

□ありえないくらい奇跡
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「フユキ殿!」
ダークケロロ…否、もう一人のケロロと言うべきだろう。
地球と酷似した星に彼が辿り着いてから早くも数週間が過ぎようとしていた。
「なあに、軍曹?」
この星の人間は頭部にポヨンちゃん達と似たような触角が付いていて、肌も独特の白さを持ち、耳は尖っている。
しかしそれはケロン人と地球人が友達になれたように、ダークケロロにとっても最たる問題ではない。
今日はフユキ――――冬樹によく似た少年が、食器洗いの当番だ。
台所で洗っているフユキの後ろから、蛙によく似た緑色の宇宙人がピョコピョコとやってきた。
「我輩も手伝うであります!」
「いいの?ありがとう、軍曹。」
彼専用の椅子をひっぱりだして、シンクを覗くダークケロロ。
家事当番は面倒臭いはずなのに、一緒に食器を洗いながらフユキもダークケロロも楽しそうだ。

しかしフユキは知らない。
彼の首の赤い布がマントの名残という事も、彼が複写された支配者だったという事も。





【ありえないくらい奇跡】





「ハァ…ハァ…」
かなり走ったのか、ダークケロロの肩は上下している。辺りは暗闇だ。更に屋外で肌寒く、彼は物陰に隠れているのだろう。
俯き立ちすくむ彼の口が小さく動いた。
「…お前達はもう二度と生きて互いに会う事は出来ない。孤独に苛まれ、駆り立てられる恐怖に逃げ惑うがいい。」
それは暗唱したような声だった。
かつてもう一人の彼とその仲間に浴びせた台詞。
しかし、本当は「特別な繋がり」に欠けていた自分が悔しくて、自分と同じはずなのにもう一人の自分にはそれがあって嫉ましかった。
「ハハ…」
孤独なのは自分じゃないかと、自嘲気味に笑ってみせる。しかし漏れたのは今にも泣きそうな頼りない声だった。
唇を噛み締め、胸に手を握り締める。
「先代、冬樹…ミルル…」
辛くて立っていられなくなりしゃがみ込む。いないのは分かっていた。
でもミルルは、王として在った時も、シヴァヴァやドルルが彼の命令を無視してもずっと傍にいてくれた。
この星でフユキやナツミと出会い、何だかんだでシヴァヴァとドルルも付いてきた。多分初めて心のそこから楽しくて笑えた。
しかし、今日あの事件が起こる迄は。

「吾は、どうすればいいのだ…」

暗闇に虚しく問いだけが響いた。
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