ケロロ軍曹

□戦場のアリア
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今日テレビで戦争の映画を観た。
主人公には、家族や仲間…大切な人がいた。
第二次世界大戦中、彼は日本にいる大切な人を護る為に、戦線へ赴く。
祖国から遥か離れた、マレーシア諸島の名もない島。
最初は200はいた仲間も敵兵に討たれ、最後には彼がたったひとり残ってしまった。
たったひとりぼっちで、来る日も来る日も戦いに身を委ねる。
死んだ戦友は、同じ釜の飯を食べた者達も、仲良しだった親友も、尊敬していた上司も、慕ってくれた後輩もいた。

皆、二度と会えない。

戦場に死は隣り合わせで、感情に任せちゃいけないんだって。

弾薬が底を尽きた後、主人公は敵兵の火炎放射器の業火を浴びながら、日本刀を手に何人か倒して、結局死んでしまった。
彼の懐には、2枚程の白黒写真が入っていた。

家族の写真。
部隊の写真。

彼は、想いを背負って最期迄生きようとしたのだ。

ラストのシーンでは、家族のもとに<ひとり>の蛍が舞い降りた。




「ううっ…可哀想…」
こんな酷い事があっていいのだろうか。
私はティッシュで決壊した涙腺を止めようとするが、直ぐにティッシュは水浸しになる。
大切なものを奪う事が、想像を絶する非道な事だなんて。
ハンカチを取り出そうとしたその時、

「ふん、くだらん。」

感動のムードを打ち壊す声が聞こえた。それはもう、氷結した薔薇の花を砕くように。
「ギロロ…あんた…」
一気に白け、流れ損ねた涙が一筋伝う。
「いちいち泣いていたら、脱水症になるぞ。」
「私の涙どうしてくれんのよバカ!!」
手元のティッシュケースを赤い宇宙人の後頭部にぶん投げた。
「のわっ!?」
見事角が命中し、ティッシュケースがへこむ。
「……!!」
彼は命中箇所を両手で押さえ、震えながら悶絶した。
「い、いいか夏美。硫黄星の戦いでは、死んだ同胞の亡骸で飢えを凌…」
「あんたよくそういう酷い事言えるわね。」
流石は現役軍人。共食いだの…例え話がいちいちリアルでエグい。
「!!」
そして私はハッとした。心臓の鼓動が早くなる。
ちょっと待って。

―――軍人…?

「戦場で死は隣り合わせだ。」
…そう。
「さっき話した仲間でさえも死ぬ事がある。悲憤に忘我して冷静さを欠くのは命取りだ。」
…何で…?
「…ギロロ…」
「どうした夏美。」
私が呼ぶと、ギロロは直ぐに耳を傾けてくれた。
「ギロロは、帰ってくるよね?」
でも彼は根っからの軍人。
「さぁな。ソルジャーに生還の保証はない。例えどんなに屈強な兵士でも、だ。」
そう、彼はボケガエル達の中では、一番軍人らしいから。
「なっ、夏美!?どうした!?どこか痛いのか!?」
さっきまでハードボイルド気取って軍人魂を語っていたギロロが、急に挙動不審に慌てまくる。
「え…?」
頬に、温かい雫が流れた。
私は泣いていた。
「お、おい、泣いてちゃ判らんだろ!どうし…」

気付けば、私はギロロを抱き締めている。

「たぁあああっ!!!!?」
「何で帰ってくるって答えてくれないのよ!!」
ギロロの叫びを打ち消すくらい、私は泣いた。
「夏美…」
この聞き慣れた声も、見慣れた姿も、なくなってほしくないから。
「それなら…あんたがいる間に…」
抱き締めたい。
後悔したくないから。
「暫くこのままでいさせて…」

だって私は、ギロロが―――

「夏美、お前を悲しませるような事は決してしない。」
そう言って、小さい手で私の背中を撫でてくれた。
何だかその手はとても頼もしい。

帰ってくるって、ギロロは言ってくれた。
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