小さなお話し
□虚ろな瞳に優しい嘘を
3ページ/5ページ
それからしばらくして、彼は唐突に消えた。
彼がボスとしてまとめていたキャバッローネファミリーは本部に何者かの襲撃をうけ、ファミリーの大半と幹部のほとんどが惨殺された。
事実上、キャバッローネは壊滅した。
残された者は行方不明のボスを信じて存続を望むものもいたが、まとめる者のいないファミリーが続くはずもなく、結局一番関係が深かったボンゴレの一部と化している。
残ったのはキャバッローネを誰が潰したのかという謎だった。
内部情報が漏れていたのは明白で、誤情報による仲間同士による殺し合いもあったようだ。
酷い争いだったはずなのに、それでも同盟ファミリーには助けを求めることもしていない。
奇妙なファミリー間の沈黙の中で囁かれる噂は、なんの確証もないものの全てに共通することがあった。
『ボスが…ディーノさんが部下を殺したんではないか?』
本部が壊滅した中、一人だけ行方不明になったボス。
これだけで、人々の疑心は彼一人に向いた。
ボスであったなら、間違った情報を流すのも同盟ファミリーに連絡がいかないようにすることも可能だ。
味方同士に相手を敵だと言い煽ることもできるし、増援を聞かれれば「もう手配してある」とだけ言えばいい。
結局は、真実は闇の中。
キャバッローネの事件はマフィア界にとんでもない衝撃を与え、数年たった今ではもう人々の記憶から薄れていた…
そんなある日、その情報は突然に入ってきた。
「風紀財団
…たしかに活動目的も不明、そもそもどこのマフィアとも交流がほとんどないけど…。」
「そうですね、俺もこの作戦は理解しかねます。
たしかにデーターを見るかぎり精鋭揃いなようですが、風紀財団なんて小さい組織をなんの脈絡もなく本気でつぶすなんて…
ボンゴレ並みに大きい組織にしてはやることがおかしい。」
「で、わざわざ情報を流してきた理由は?」
「ボンゴレ次期十代目が通ってる高校に近い本拠地に攻め込むのでファミリーの人員が周辺で派手に動くと
…ご迷惑はおかけしない、ボンゴレに逆らう気はないということが言いたいらしいです。」
「そんな断りを入れるくらいなら、風紀財団なんてほかっておけばいいのに。」
高校に入学し、正式に次期10代目になると発表された俺は、学校に通いながらも少しだけマフィアとして動きながら毎日を過ごしている。
そんな毎日の中で入った、奇妙な話。
風紀財団は俺たちと同じく日本の並盛を拠点にして活動しているもので、ボスとして中学のときの風紀委員長が組織をまとめているはずだ。
先輩と直接話したことがあるわけではないが、やはりすぐ目の前で意味もなく知り合いを潰されていい気はしない。
「ヒバリ…キョウヤ、だっけ?」
「はい。
年齢不明、並盛中学卒業後に財団を立ち上げるも活動はボスの趣味に近いもののようです。」
ヒバリ先輩。
…行方不明のあの人の、思い人。
あの人の気持ちを知っているのは、きっと俺だけだろう。
本当はあの人が行方不明になったとき、ヒバリさんに何か知らないか聞こうと思った。
けど、聞けなかった。
あの人と今回のことに何か関わりがあることは、超直感で気づいていた。
ヒバリさんはあの人の居場所を知っているという確信が、確かにあった。
それでも、ただ『彼が知っている』という事実を自分の耳で聞きたくなかった。
それには、あまりにも自分は幼かった。
『ヒバリさんは知って』いて、『俺は知らなく』て。
『ヒバリさんは愛されて』『俺は愛されない』
自分が思うのと同じ大きさの愛が返ってこないことが、幼稚な俺には耐えられなかった。
知りたくない。理解したくない。そう何度も何度も何度も繰り返して。
自分がもっていた確信に蓋をして、
『きっとどこかに隠れてて、ほとぼりが冷めたら出てくる』
だとか、自分に都合のいい言い訳に変換した。
いくら内にどんなものを秘めていても、初めて会ったときの彼に偽りがあるわけではなく、愛していることは変わりなかったのに。
愛を与えたろことで、同じ量だけ返ってくるわけではないと、理解していたのに、愛されない現実を否定したくて。
だから触れたりなんてしなかった。
怖かった。
……愛されないことが、こわかった。
「…助けに、行っちゃう?」
「じゅ、十代目!?」
「俺たちはこの場所を守るために並盛に留まってるのに…並盛で起こる喧嘩を見て見ぬフリなんてできない。」
でも
2度しか見たことない金色の髪を、その瞳を、笑顔を、何度も何度も思い出したんだ。
初めて会ったときのキラキラとした笑顔を。
2度目に見たときの悲痛な表情を。
…触れることなんてしないから、せめてそんな悲しそうな顔を最後にしないでほしい。
俺は、あなたが幸せに笑っている顔が好きなんだ。
数年前の、ただの中学生だった俺には出来なかった。
勇気も力もなかった無力な自分。
それでも……今なら。
力は仲間を守るために十分につけた。
勇気は、走りきる自信は正直ないけれど、踏み出すくらいはある。
あのとき、何でもない日常に埋もれたまま手を伸ばさなかった自分は、もういない。
だから
「喧嘩が嫌いって言ってる俺の目の前で殺し合いしようなんて、俺の顔に泥塗りたくってるようなものだよ。」
「…じゃあ」
「守護者を集めて、獄寺くん。」
そこに何があっても。
あなたを見つけに、いくよ。
.