小さなお話し

□虚ろな瞳に優しい嘘を
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2度目に彼を見たのは、学校のグランド。

3限目の体育が終わって、日直だったオレはグランドに置いてあるポールを片付けている最中だった。

しばらく見ていないあの人の姿に、オレは心臓がトクリと音をたてるのを感じた。



(ディーノさん…だよね)


校舎の壁に背中を預けて突っ立っているのは、間違いなくディーノさんだった。


(柱の影の目立たないところで、こんな時間に何してるんだろう?)


マフィアの仕事はよくわからないが…仮にもボスがこんなところに来ることがあるのだろうか?

気になって近くに行こうとしたその時、彼のすぐ横にある窓のカーテンから垣間見えた光景に俺は足を止めた。



それは、まだそういう事に疎い俺でもすぐに理解できるものだった。



少しだけ開いたままの白いカーテンが、風で微かに揺れる。


その奥は見慣れた校舎から一変し、異空間だった。


染めているのだろう…茶色の髪をしたガタイのいい人が黒い皮張りのソファーに座り、


その人物の上に向き合うよいに座って、身体を上下させる黒髪が相手にキスをする。


黒髪のほうの乱れたシャツから見える白い肌はあまりにも刺激的で、すぐさま視線を逸らした。



『淫乱いいんちょー』



山本が言ってた単語が、頭に響く。








「はあ!?」

「だから、風紀委員長の呼び名。
ヒバリだっけ?
あいつすっげーヤリマンらしいって話。」

「や、ヤリ…!!
野球バカ、十代目の前でそんなはしたない言葉使うんじゃねーよ!」

「いちよう両刀だけど、連れ込むのは八割型オトコだって。
他にもいろいろ噂たってるんだぜ?
保護者を腹上死させたけど権力で揉み消したとか、逆にノンケの後ろ開発して一日で一通りなんでもできるようにしたとか…」

「ば、バーカバーカ!!
あ"ーーーもう!!
純粋でピュアな十代目の前でなんてこと言うんだ!!
こんの野球バーカ!」

「でもさぁ、なんとなくわかるよな。
ヒバリってこう…なんつーの?色気?みたいなのムンムン出てるし。
獄寺のちょっとはそう思ってるから怒るんだろ?」

「ハァ!?お、おお、思ってねぇよ!!
男同士とか気持ち悪りぃ!!」

「まぁオレもそういうのは想像したことないからよくわかんないのな。」

「そ、想像とか言うなバーカ!!」





2人がだいぶ前にしていた休み時間の会話。

あのときは規律に厳しいヒバリさんに腹がたった不良が流した噂だとか思って、あんまり真剣に聞いてなかった。




あの噂、本当だったのかもしれない。




だってあの窓は、風紀委員長が居座る応接室で。

あの黒髪はたしかにヒバリさんだった。




(あれ、じゃあディーノさんは…何してるんだ?)



あの距離なら、さすがに部屋の中の様子はわかるだろう。

その……声とか……うん、いろいろ伝わってるはずだ。

できるだけ窓のほうを見ないようにして、こっそりディーノさんのほうを再び見てみる。






「え………」






「おーい、ツナ!
早くしないと4限目始まるぜー?」


善意で片付けを手伝ってくれた山本が、グラウンドの反対側で叫ぶ。

ごめんと謝りながら、俺は集めたポールを両手にもって走り出した。









(なんで…

なんであの人が、あんなに悲しそうな顔をしているんだろう)


すごく綺麗に笑う人なんだ。

なんでその人が、あんなにも胸が張り裂けそうな表情をしなければいけないのか。





その表情の意味から考えられる結論は、あまりにも限られたものだった。









俺は男で、ディーノさんと恋人同士なんかになれるわけもない。

普通の一般的な家庭で育った俺は、男同士だとかに多少は偏見をもってるわけで…

むしろまわりに自分の気持ちを知られるのさえ怖かった。

だから、綺麗な思いのまま胸の奥に閉まっているだけで満足だったのに。


(なんで…なんでディーノさんの瞳には、ヒバリさんが映るんだろう)


ヒバリさんだって男なのに。

あの人なんて思っても…報われることなんてないのに。


(俺だったら…あの人を愛してあげられるのに)


俺には大事なものがたくさんあって、壊したくないものだってあるけど。

それでもちゃんと話して、みんなに受け入れてもらえるように頑張って、笑い合えるようにできるのに。




今まで自分の中に感じたことのない黒いものが、俺の中にたまっていった。


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