小さなお話し
□Past World 〈中篇〉
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ただ、僕は彼を直視できなかった。
認めたくなかった。
認め、られなかった。
「恭さん、ディーノさんの葬儀ですが…」
「行かない」
「いちようボンゴレから正式な任務として、通達が…」
「行かないって言っておいて。」
まだ何か言いたそうな草壁を無視して、ドアを閉める。
部屋を見渡せば、ディーノとの思い出がつまったものばかりが目に映る。
クリスマスにもらった白いマフラー
彼からの初めてのプレゼントで、学ランに合うようにって、選んでくれた
日本からイタリアに来たときに一緒に買ったマグカップ
忙しくてもお互いを感じれるように、ってディーノは笑ってた
彼が前に忘れていったままのジャケットとかとか、おそろいのカフスだとか…いつのまに僕の生活は彼にこんなにも染められていたのだろうと、少しだけ笑ってしまう。
なんで…なんでこんなことに、なってしまったのだろう。
予兆は、あった。
…草壁が警告してくれた。
僕は、自分が狙われる可能性を知りながら無視した。
なんで待ち合わせ場所に行った?
なんで映画館なんかに行った?
なんでもっと早く回りの異変に気づけなかった?
そもそも…僕に彼と付き合う資格なんて、なかったのに。
こんな…男同士の不毛な関係に、ディーノの未来をまきこむわけにはいけないって、わかってたのに。
たまたま会える偶然にでさえ奇跡を感じるのは、自分が許されないことをしていると感じていたから
回りの目を気にするのは、誰かが彼を奪っていってしまうかもしれないと不安だから
金髪の少女に罪の意識を感じるのは…彼が結婚して生まれるはずだった少女を思わせるから
全部わかっていたのに…僕は彼と離れたくなくて、それでけっきょく………………
(僕が…殺したようなものだ)
気づけば僕は黒い銃を取り出して、自分の頭を打ち抜こうししていた。
(もっと早く、こうするべきだった)
僕がいなければ
僕が、いなければ…!!!!!!
「ヒバリさん!」
いつのまにか部屋には沢田がいて、僕の手から銃を取り上げる。
「恭さん……!!」
「…ぁ………なして…
離してっ!
こんな…こんな世界、望んでない!
いらないんだ…っ」
崩れ落ちるように膝をつく僕を支えるように、草壁が僕の両肩をもつ。
「すみません…なんども部屋の外で呼んだのですが返事がなく……」
「オレが草壁さんの言うことを無視して部屋に入ったんです。」
草壁の体温が後ろから伝わると、なぜか涙がボロボロとこぼれてくる。
「きょ、恭さ…」
「ヒバリさん、ディーノさんのことでお話があります。」
「沢田さん…!!
今ヒバリは…見てわかるでしょう!?
とても出かけられる状態ではありません…!」
沢田は黙ったまま、座り込む僕の前に小さな箱を置いた。
沢田の小さな手が、そっと箱のふたを開ける。
中に入っていたのは、黒い銃弾だった。
「十年バズーカは知ってますね?
この銃弾はをつくった入江君の研究チームは、十年バズーカについての研究を中心にしているのですが…これは研究の過程で生まれた不思議な銃弾です。
死ぬ気弾と限りなく似通ったものだそうですが、効果がまったく異なります。」
「どんな効果が、あるんですか?」
「簡単に一言でいうと…自分の望む過去や未来に行くことが出来ます。」
「「!?」」
「そんなことありえない!!
だいいちそんな技術があるなら、もっと噂が広がっているはずです!」
「入江君とオレだけの秘密です。
というのも…これは危険すぎるんです。
十年バズーカと違い、体ごとその空間に移動する…つまり同じ時間に2人の同じ人間が存在することになってしまう。
最初は十年バズーカをも超える画期的な発明だと思われていました。
けどそれは間違いだった。
自分の欲望に負けて無断で試作品を使ってしまった一部の研究員は、全員行方不明…たまに体の一部が不自然な場所に見つかるくらいです。」
「さ、沢田さん…
その体の一部というんは…。」
「体の一部…指とかだったり、内臓だったり様々です。多くは海などで見つかっています。
時期も場所もバラバラ…見つかってない人の方が多いですが。」
「…」
「入江君が調べた結果、自然の摂理に反しているからか、この銃弾をつかって過去を変えると時間同士の狭間に巻き込まれて…こういう結果に…。
もちろん、未来を見たことによって、本来起こるべきだった自分の行動が変わっても同じことが起こるそうです。
今まで無事に帰ってきた人間は一人だけです。」
「その一人とは?」
「それはたとえ草壁さんにでも…ヒバリさんにでも話せません。
それに、なぜその人だけ無事だったのかもはっきりしてません。
入江君の仮説では…その人が未来や過去を行き来したときに、現在とそれにつながる未来を変えなかったから正常に体が戻ってきたのだと言っていました。」
つまり…それを使って過去へ戻れる。
でもディーノを助ければ、過去を変えることになる。
変えたら、戻ってこれない。
「向こうに留まれる時間は約半日程度。
過去に行った人が望むように現在を変えられたのかは、不明です。」
「それは……」
そういったきり、草壁は黙り込んでしまう。
…わかっている。
草壁が、僕にこの銃弾を使ってほしくないことくらい。
第一リスクが高すぎる。
本当に過去を変えられるのかさえわからない。
それに、成功にしろ失敗にしろ僕は、
「…それでは、オレはキャバッローネに行ってきます。
帰ってきたころには…おそらく葬儀の最中です。
間に合ったら、来てください。」
「…なんで…僕にこれを渡すの?」
かすれた声で、小さく沢田に聞いてみる。
「俺にもわかりません…ただ、こうしなきゃいけない気がしたんです。」
「…」
「使うか使わないかは自由です。
後悔、しないでください。」
過去を変えてほしいのか、それとも僕に戻ってきてほしいのか。
けっきょく真意はわからないまま、沢田は部屋から出て行った。
「恭さん…」
僕の体を支えていた草壁の手の温度が離れた。
「恭さんが決めることです。
それでも…風紀のボスは恭さんです。」
そう言って草壁は、部屋から黙って出ていった。
それでも彼の気配は障子の向こうに消えずにのこっていて、無言の温かみを感じる。
「…行ってくるよ。」
見えない草壁に向かって小さく言うと、箱に入っている銃弾を取り出して銃にセットする。
この命をかけて、過去を変える。
あの人は…死なせない。
僕は下唇を噛み締めながら、銃口をこめかみに当ててトリガーを引いた。
*ツヅク*
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