小さなお話し

□Past World 〈中篇〉
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その日は特別な日だった。


誕生日でも、クリスマスでもない、ただの平日だったけど…たまたま僕も彼もスケジュールの開いていた、めずらしい日。

いつもはお互い無理をしてつくっている時間だけど、今日は違う。



ただ休日が重なっただけ、と言ってしまえばそれ以上でも以下でもない…

でもたったそれだけでも、それだけでなんだか嬉しくて、何かに祝福されているように思えて。



僕は初めてデートするカップルのように、朝からどきどきしていた。







「恭弥ー!」

「…遅いよ。」

「悪りぃ、ロマーリオたちがなかなかしつこくてな。」

「あなたを思ってのことだよ。」

「だからってせっかくのこんな日なんだから、2人きりで楽しみたいだろ?」




実は僕のほうも、出かけるといったら草壁たちが護衛に付くとうるさかった。

『こないだボンゴレ幹部を暗殺するって脅しが本部に送られてきたそうです。
恭さんもできれば一人で外出されない方がいいいかと…』

いつもは僕に従順な草壁が反抗するのはめずらしいものだった。

だからと言ってディーノとの約束をすっぽかす気がさらさら無い僕は、見つからないようにこっそり出てきたのだ。



僕は黙って出てきたから追いかけられることはなかったけど…ディーノはそうはしなかったのだろう。

バカみたいにファミリーを大切にするディーノのことだから、素直にロマーリオに頼んだに違いない。



部下に甘い彼にちょっとムカつくときもあるけど、そんな彼だから僕はディーノが好きなのだと思う。





「…ゆるしてあげる。
こんな日にいきなり喧嘩なんてしたくないしね。」

「サンキュ。
それにしても…ほんとに部下全員撒くの、大変だったんだぜ?」




天気は快晴
光る金髪にまぶしいほどの笑顔

そんな綺麗な笑顔を振り撒けば、まわりから感嘆の声が小さく聞こえた。




黒いカッターシャツに似た色の上着、ダメージのジーンズ、彼の好きなシルバーアクセ。
ブランド物のベルトと合わせた靴のおかげか、ラフな格好なのにどこか大人っぽくて落ち着いてる。

…ただでさえ顔が整ってて目立つのに、雑誌から出てきたようなスタイルの彼は、男女問わず視線を釘付けにする。





「そんな格好だから目立つんだよ。」

「恭弥とのデートだから気合いれてきたんだよ。
恭弥も…ちょっとはデート意識してくれた?」



ホストの休日みたいなディーノの格好に対して、僕は黒いTシャツとジーンズ。

全部ディーノが買ってくれたもので、普段は恥ずかしくて彼の前では着れないものだけど…今日くらいは、と着てきたものだ。


彼みたいに小物を使いまわせるほどではないが、ディーノの見立てなだけあってどれもそれなりにセンスのいいものだ。



「…別に、ただのきまぐれだよ。」

「可愛い。似合ってる。」




ディーノが僕の唇に軽くキスすれば、まわりでは小さな悲鳴があがる。

外国とはいえこんなにかっこいい男が小さな東洋人の男にキスすれば、誰でも驚くだろう。

それでもディーノはまわりの目を気にしていないようで、幸せそうに笑う。





「…目立つんだけど。」

「うらやましいんだよ。
見せ付けようぜ。」






ほんとうに、幸せだった。

ただ普通の恋人のように、彼と過せることが。

それは貴重な…それでいてありふれた光景で、ささやかな幸せ。



ほんとうに、うれしかったんだ。















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