小さなお話し
□最後のキスに小さな願いを
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――狂ってるのなんてわかってる。
だって胸が、こんなにも苦しいんだ。
夜中になると悪夢にうなされて飛び起きて、何度も何度も後悔する。
『なんで、こんなふうになってしまったんだ』って。
嗚咽はとまらなくて、涙が意味もなくシーツの上に染みていく。
無意味に奪った命
絶望に染まった表情
毎回知らない人間に身体を許す君
壊れて狂っていく瞳
恍惚とした玩具達
決して本当に届くことのないオレの思い
何もかもが苦しくて、それでもオレに選択できるものは一つだけで。
あまりの苦しさに爪をたてれた胸にはすでにいくつも瘡蓋があったが、その上からまた肉を抉る。
いくら痛みを与えても消えない苦しさに絶望した視界には、赤いものが肌をつたうのが見えた。
狂ってなければ、おかしくなる。
異常にならなければ、その白い肌に触れることさえできない。
「僕のこと、愛してるでしょ?」
いつだって、彼は嬉しそうにそう言う。
愛してるさ。
何よりも誰よりも愛してる。
…恭弥は愛されることしか知らない。
愛することを知らない。
きっと身体を許して愛させてあげることが、見返りだと思ってる。
それじゃあ、ダメなんだ。
ちゃんと相手を思って、相手を労わって、相手のことを愛さないとダメなんだ。
だから玩具はすぐに壊れていく。
ある者は満たされることのない思いに絶望し心を自ら砕き、ある者は無理矢理手に入れようとして逆に殺された。
一方通行な思いに満たされることなんてない。
ほんの少しでも、恭弥が誰かを思うなら…きっと恭弥は満たされるのに。
検討違いに相手に求めるだけで、恭弥自身も壊れていく。
答えを知っているのに教えないのは…もしもその相手が自分以外だったら怖いから。
恭弥をそうして失うくらいなら、今の関係のままがいい。
オレも一緒に狂って、苦しみにだって耐えてみせる。
「恭弥」
「お兄ちゃん、久しぶりだね。」
「ああ、本部にいるのは全員殺してきた。」
「そうなんだ…大変だったでしょ…?」
「ああ。
情報は漏れてるだろう…支部のほうにはもう誰もいないかもしれない。」
「ううん、そんなのいいよ。
もうあなたにキャバッローネはない。
これで、あなたにとって僕が唯一になれる。」
違うよ、恭弥。
恭弥は好きに順位をつけるけど…そもそもファミリーの奴らとは好きの種類が違う。
ファミリーは家族であり戦友。
恭弥は恋人。
恭弥は出会ってからずっと、オレにとっての唯一で特別だった。
「恭弥…愛してるよ。」
恭弥が、オレをジッと見る。
その瞳にはオレが映る。
他の誰でもない、オレが。
瞳に映ったオレはとても嬉しそうに、泣いていた。
「僕も大好きだよ、お兄ちゃん。」
声変わりしてない、ずっと前から変わらない声で。
呼んでくれているのはオレの存在なのに。
限界を超えて、オレの心はボロボロと崩れた。
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