小さなお話し

□最後のキスに小さな願いを
3ページ/5ページ



「覚えてる?
初めて会った日、お兄ちゃんがここに連れてきてくれて…おんぶしてくれたこと。」


「ああ。
懐かしいな。」



ブランコを揺らしながら、恭弥が笑う。

夕日に照らされた髪が綺麗で、オレはとなりでそれをじっと見つめる。



手を伸ばして、しまいそうになる。

抱きしめて、キスをして、グチャグチャにしてしまいたい。




恭弥には普通に可愛い女の子と付き合って、笑いあって、結婚して、子供をつくって…
そういうのが正しい道だってわかってるのに。




「…すき、だ」




涙と一緒にこぼれた言葉は、情けないほどに小さいものだった。


「お兄ちゃん…?
泣いてるの?」


「ごめん…ごめんな、恭弥。」


「どうして謝るの?
泣かないで、お兄ちゃん…」


恭弥の白い手が頬に伸び、それをオレは無言で拒否する。

信じられない、という顔をした恭弥を見て、オレもどうしようもなく苦しくなる。



「好き、なんだ…」


「僕もお兄ちゃんのこと大好きだよ?」


「違う…!
ちがう…そういうことじゃないんだ…」


「…」


「オレは…恭弥を、恋愛対象として好きなんだ。
だから…っ、勝手かもしれないけど、もうそばにはいられな」





「うん、あたりまえでしょ?」





「……え…………?」





目の前で、ニッコリと笑う恭弥。

3秒前までは天使のように純粋に見えた笑顔は、どこか怪しいものになる。



「お兄ちゃんは、ずっと僕が好きだったでしょ?
抱きしめて、窒息するようなキスをして、監禁して毎日犯したいくらい。」


「きょ……や?」


「知ってるよ。
僕のこと愛してくれる、僕の言うことなんでも聞いてくれる、愛しくて愚かで滑稽で便利な僕のオモチャ。」


「…ッ」



何が起こってるのか、わからない。

夕日に照らされた妖艶な顔が、幸せそうに微笑む。




「お兄ちゃんのこと、すっごく好きだよ。

僕にいちばん最初に愛をむけてくれた人だから。

無理してプレゼントをもってきてくれるところも、仕事をキャンセルして僕に会いに来てくれるところも…アイサレテルって思えて、すっごく幸せになれる。

お兄ちゃんみたいに僕に尽くしてくれる子は、ぜんぜんいないんだ…。

だから、お兄ちゃんが今の僕のいちばんのオモチャ。」




耳元で囁かれる声はすごく心地のいい音なのに。

囁かれる意味はまったくといっていいほど頭に入らない。



「ねぇ、お兄ちゃん。
お願いがあるんだ……聞いてくれる?」























グラグラと狂気で揺れる世界の中で、その心地よさに微笑む。

理性なんてない。

ただ、恭弥の望むままに。

簡単なことじゃないか…
オレは恭弥の願いを叶えたい、彼は願いを叶えてほしい。

恭弥の欲に底があるはずもなく、オレはきっと犠牲をはらって答える。

そしてその見返りに、オレが彼の一番になれるのなら。


「お、お前、誰だよっ!!」

「オレの恭弥に、逆らったバツだよ。」

「や、やめろ…やめ、ガハッ――」


脱色した髪に、ピアスがいくつもついた耳。

あきらかに不良だとわかる少年の学生服は地面に転がされて酷く汚れていた。

それでも、オレはそれを踏みつける作業を止めない。

ところどころ赤が滲んだその物体が動かなくなったのを確認して、銃で頭にトドメを打ち込む。


「た…タズゲ、デ……」


銃声の前に発せられた呪いの言葉は、オレの耳に入って脳内に響く。




これで…コレデ、恭弥がアイしてクれる。

キスして、ダキシメテ、ヨロこンでくれル。

オレがイチバン、キョうヤをアイしてるかラ。

なんダッてアゲられルし、なンだってカナエテあげル。



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ