小さなお話し

□カラッポの器に愛を
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※性的表現を示す単語があったり、暴力的な表現があります
また雲雀さんが複数を関係をもってます











両親はいない。



名家に生まれた母がどこの馬の骨とも知れない父と駆け落ちして生まれたのが、僕。

父親は交通事故で死に、病を患った母は最期に僕をこの家に預けてどこかへ消えた。




祖父と祖母とは、数えるくらいしか会話をしたことがない。




あの人たちは、僕を『あの男の血が入った煩わしいもの』としか見てくれなかった。

とはいえ他に跡継ぎはなく、生活に必要なものは与えられていたし、小学校にあがるまで専門分野ごとの家庭教師から英才教育を受けさせられていたのだけれど。




まだ赤ん坊だった僕は家にいるお手伝いさんたちが交代で世話をし、物心がついても誰にも特別懐くこともなく育った。




許可がなければ私事で会話はできず、ただ事務的な会話を話すだけ。
そんな中で誰かに心を許すのは、酷く難しいことで。




出歩くのも許可が必要で、家庭教師づきで幼稚園にも行かない僕には友達さえできない。





そこは、檻だった。

動物園の檻よりも静かで、囚人たちの檻よりも快適な檻。

決められた通りに食事し、学び、促されるままに眠る。







今になって思えば…孤独、だったのかもしれない。

ただ幼い僕には、それが苦痛ではなかった。

まわりに助けを求めるわけでもなく、ただそれが現実だと思っていた。












「はじめまして。」






そんな真っ白な日常の中で、唐突に現れた金色はとてつもなく眩しかった。






「はじめまして。」


「…だれ?」


「お前のお祖父さんとオレの親父が知り合いでな。
2人はむこうでお仕事のお話してるから、オレは邪魔しないようにこっち来たんだ。」


「なんで?」


「オジサンに孫がいるって聞いて、兄貴分として挨拶しなきゃなって。」


「…。」



金色の髪に黒くない瞳。
見慣れない色に警戒してギロリと睨めば、ディーノは困ったように肩をすくめる。



「そう警戒すんなって。
…あ、わり、自己紹介まだだった。
オレはディーノな。
キョーヤ、で読み方合ってるか?」


「…あって、る。」


「そっか。
よろしくな。」



頭をポンポンと撫ぜる彼は、今までの誰とも違っていた。




僕に笑いかけてくれる。

僕に話しかけてくれる。

僕を、見てくれる。




「どっか公園とかにでも遊びにでも行くか?
ここじゃ遊ぶもんなさそうだもんな。」


「おそと、出れるの?」


「あんまり外とか出かけない?」


「おともだちいないし…あぶないからって…
。」


「そっか、じゃあ今日はオレが頼んでみる。
だから行こう?」




差し出された手は、白人特有の真っ白な手。

今までまわりにいた人間とは違うその色は、まだ子供だった僕の視界に恐ろしく綺麗に映った。






どうだって、よかった。

何もかもが当たり前に与えられて、何かが足りないとかほしいとか思わなかった。




ただ…その手の暖かさに、心を感じた。

人に好意を向けられるということがこんなにも心地よいものなのだと、嬉しくなった。




もっと、もっと、僕を好きになればいいのに。
僕から離れられなくなるくらい。
彼自身よりも僕を大切にするくらい。

この人間を占めるすべてが、自分に向けられればいいと。




自分よりもかなり背の高い少年にむかって、僕はにっこりと笑いかけた。



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