小さなお話し

□カラッポの器に愛を
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行為が終われば、彼の瞳は僕に酔っていた。

こうしてつくった僕に従順な玩具は、風紀であったり並中の生徒であったり、はたまた生徒の保護者だったりもする。


でも…どれだけ玩具を並べても、僕の心は満たされないのだ。


触れれば一時的にぬくもりを感じられるし、酷いことを言っても従順に従ってくれれば愛されているとも思うのに。

頭のテッペンから入ってきて、僕の中に留まることなく、足元に落ちていく。













乱れた服装を直しながら、ドアの向こうにむかって声をかける。


「入っていいよ、お兄ちゃん。」


15分以上前からずっとそこにある慣れた気配にむかって話せば、いつもどおりの彼がドアを開けた。



「…お姫様は大変だな。」


「新しい玩具は楽しくて仕方ないよ。
奪えるものが多いからね。」


「…」



楽しそうに言えば、表情を曇らせて少しだけ視線を逸らすディーノ。



本当はイヤなんだよね?
僕が気まぐれに他人に身体を許すのも。
新しい玩具を手に入れては壊して捨てるのも。

本当は自分だって僕を抱きたいくせに。
自分以外見てほしくないと思ってるくせに。



「そんな顔しないで。
興奮するから。」



白い頬をペロリと舐めあげれば、悲しい顔をする愛おしいオモチャ。

もっと、もっと僕を欲しがって?

僕の望むことを全部して、真っ黒に染まった両手を床につけて、跪くあなたを見るのがとても好き。
酷く傷ついて、それでも僕に必死に手を伸ばしてくれるあなたが、とってもすき。

悲しい顔をして、瞳の奥で僕を求めるあなたは…滑稽で、愚かで、すごく愛おしい。


僕のいちばん出来のいい、オモチャ。




「で、あの女達は全員殺してくれた?」


「ああ…恭弥が言ったとおりに、全員。」


「そうなんだ。
かわいそう。…でも仕方ないよね。
だって、僕のディーノの触れたんだもの。」


「…」


「でも、さすがお兄ちゃんだね。
僕の為に元恋人も全員殺してくれたんだもん。」



こないだ僕が彼に頼んだのは、前にディーノが付き合っていた女たちの殺し。

本当はどうだっていい。
過去は過去でしかなくて、彼が今愛してるのは僕なのだから。

ただ、彼にとってはかつて愛した人を殺すのは辛いよね?



辛いことをしてくれたってことは、それだけ僕を愛してくれてるってこと。




「…」


「ごほうび。」



舌で彼の唇をなぞれば、ゆっくりと開かれる。
間にもぐりこませて味わえば、優しく愛しそうに返してくれる。


『アイサレテル』


そんな感覚が、唇から伝わる。
彼のキスはとても優しくて、気持ちがいい。

でも、そんなんじゃ足りない。

タリナインダ。







モット、アイガホシイ。







「…ね、本当に、僕のこと好きだよね?」


「ああ…愛してるよ、恭弥。」


「ならさ、僕以外の人間なんてイラナイよね?」



長時間重なっていた唇が離れたときに、ゆっくりとした口調で囁く。



「何、を……」



きっと、何を言っているのかわかったのだろう。
勘のいい彼のことだから。
サアッと音をたてて、桃色に染まっていた頬から血の気が消える。

初めて彼に、人殺しをお願いしたときの表情に似て、


すっごくソソラレル。





「壊してよ。
あなたが一番大切にしてきたもの。

あなたの、ファミリー。」


「それ、は…」


「僕のこと、愛してるでしょ?」



何度も、玩具たちに言った言葉。

僕とファミリーを天秤にかけて、迷わないで。

僕を『一番』じゃなくて、『唯一』の大切にしてほしいと思うのはダメかな。

僕の唯一はあげられない。
だって、愛してない。
愛ってわからないんだよね。

たくさんの『一番』や『特別』じゃ満たされない。
『唯一』だったら、僕を満たしてくれるかもしれない。





「っ………」


「おねがい。」





愕然と開かれた瞳が、戸惑い、絶望し、黒く濁る。





「……ワカッタ。」





カラッポの器に

(どれだけたくさん集めても、満たされない。)


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