小さなお話し

□愛とか、そんなものじゃなくて
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いつも、あの人の夢を見るんだ。

いつだって夢に見るのは、あの人の笑った顔。

毎日、毎日記憶の中で繰り返されるあの人は、笑いを浮かべて一言いうだけ。





『可愛かったよ。
…ゴクロウサマ。』




ベットに沈んだ僕の頭上から、甘く非情に響く蔑んだ声。

見下したような、妖しく笑う唇が、憎くて悔しくて、嫌いだ。













そう、彼は一度だって僕を愛したことはない。













「ボンゴレから連絡はいってるよね。
例の件できた。」


僕がそういうと、ロマーリオは軽くうなずいてあの人の部屋へと案内した。




「ねぇ。」


「…なんだ。」


「こっち、あのひとの執務室じゃないよね。」


「ボスはもともと今日は午後からオフだったんだ。
だから私室に案内するように言われてる。」


「…君も、か。」




この人も、見てみぬふりをする一人かと自嘲する。


自分に都合の悪いことは見てみぬふり。
なんだかんだで勝手な妄想をして、理由をつけて。
理由を言い訳にして、自分を正当化する。

きっと真実が見えたところで、何もしようとはしないのだろう。




「じゃあ、俺はここで失礼する。」


「…なんで、何も言わないの?」



小さく聞くと、
「…恋人同士が会うのにわざわざ理由を聞いてたら、野暮ってもんだ。」
と言ってそのまま立ち去った。









「入れよ」



ドアの中から、声がした。

その声が誰のものかなんてわかりきっている。

僕の体は誰かに操られているかのように、そのドアをすんなり開けた。





「待ってたよ、恭弥」





ニヤリと、口元が笑う。
前髪に隠れている瞳が少しだけ細まる。

吸い寄せられるように書類を中央の机に置いて、そのまま隣に座る彼の前で止まる。



「…もう、やめよう。」


「何が?」


「僕たちだよ。
終わりに、しよう。」


「…なんで?」


「……」


「答えろ」



ふいに左の手首をグイッと掴まれる。
骨がきしんで折れそうなほど力を入れられて、思わず声が漏れる。



…いつもそうだ。
この人は自分の思いどおりでないことが起こることを恐ろしく嫌う。

骨がギリギリ折れない程度の力で握り続けているのもわざとなのだ。

咄嗟的なものなんかじゃない。
本質からくる、狂気。




「…ぐ……ッ………」


「聞こえなかったのか?
もう一度だけ言う…なんでだ、恭弥?」


「こ…なの、っ、間違ってる。」


「そんなことか。
最初からわかってることだろ。」



ディーノの予想範囲内の言葉だったのだろう。
急に空気が甘いものになるのと同時に、手に入っていた力が緩む。



「もう……耐えられない。」


「今までやってきたんだ、これからも大丈夫だ。
回りだって協力してくれてるだろ。」


「もう無理だ…」


「じゃあ逃げてみろ。」



手首から腕へ、スルリと手がのぼってくる。
そのまま軽く引き寄せられて、座る彼に跨るように僕の体は前にくずれこむ。

腕から肩へ
肩から首筋へ

そのまま頬までたどり着いた指は、ゆっくりとそのまま爪をたてる。



「無理やりなんてやってないだろ?
恭弥の力なら素手でだって簡単に逃げられる。」



爪は肌に食い込んで、食い込んだ肌からは血が垂れる。




「逃げないのか?
違うよな、恭弥は逃げれないんんだ。
だって」










オレを愛してるから

な、オレも恭弥を愛してる

何が問題なんだ?

オレたちが求め合うのは必然だ










吐息と一緒に、甘い言葉が紡がれる。



「…嘘つき」



あなたは、怖いだけじゃないか。

僕が離れるのを恐れて、未熟であなたの背中を追っていた昔の僕が変わるのを嫌がって。




あなたは僕を愛してない。



ただ縛り付けたいだけだ。






「嘘つき、」



























この世界は、嘘つきばかり。

エゴを並べて理由を重ねて、そうして自分を守る。



沢田だって、僕たちに気づいていたのに何もしない。

獄寺だって…あの様子なら少しは気づいているのだろう。
なのに知らないふり、聞こえないふりだ。

ロマーリオだって。
ボスを思うふりをして、結局は物分りのいい自分に酔ってるだけ。





何より…僕が一番の嘘つきだ。

こんなにもこの関係を否定しながら、それでも受け入れることを心のどこかで喜んでいるのだ。



愛人だろうと不倫だろうと、そんな呼び方なんて本当はどうでもいい。

ただ彼が僕を愛してくれないことを、拒んでいるだけ。

























「ディーノ」

肌に触れるところが、熱くなっていく。


「どうした?」


額に浮かんだ汗が、顎をつたって僕の胸の上に落ちる。








それでも、僕は、



「ねぇ、ディーノ。
もう一度言って?」



「まったく、恭弥は我侭だな。」





「もう一回だけ。
愛してるって、言って?」














愛 ト か そ ん ナ モ ノ じ ゃ ナ く テ



(ただの、大きな子供の醜いエゴ)


end...


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