小さなお話し

□愛とか、そんなものじゃなくて
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抵抗する暇はあった。

それでも僕に抵抗できるはずはなかった。



一度起こったことはもちろん次も起こるわけで、そしてそれに終わりは見えない。


たどりつく先はない。
目指す場所もない。
愛の言葉もない。
求めるものも手に届かない。


なんて、不毛な関係。
それでも終わることを知らない関係。

誰かに終わらしてほしくて、でも自分で終わらせることもできずに。





苦しくて、仕方なかった。



























「入るよ。」


そう言ってボンゴレ十代目の部屋のドアを開けると、目の前には予想外の光景がとびこんできた。




「ひ、ヒバリ!」

「ヒバリさん……」



沢田の部屋のはずなのに、そこにはなぜか獄寺隼人もいて。

沢田が壁際に追いやるように、獄寺隼人の顔の横に両手をつけている状態。


つまり…お取り込み中、みたいな。





「ヒバリさん、返事を聞く前に入らないでください。」


ふぅ、とため息をつきながら沢田は獄寺隼人から離れる。

獄寺隼人はというと、顔を真っ赤にして口をパクパクしている。



「別に君と沢田がキスしようとどうでもいいんだけど…
入り口で突っ立ってもらうのは困るね。」


「なっ!!」


「キスくらいで何慌ててるんだか。
どうせそれ以上のコトくらいして…」


「…っ!!てめぇ、果て…」


「獄寺君、ヒバリさんを呼んだのを忘れてたのは俺だよ。
あと此処でダイナマイトは使わないでね。」



悔しそうに僕を見つけながら、取り出しかけたダイナマイトをスーツの上着に隠す。

ふんっと少しだけ笑ってやると、ギリギリと歯をかみ締める。




「ヒバリさんも、あんまり獄寺君をいじめないでください。」


「…ムカツク。」


「?」


「…なんでもない。」



沢田はジッと僕を数秒見つめて、それから自分のデスクの前に行って書類に目を落とした。




「…そうですか。
ところでヒバリさんをお呼びした件なんですが、これを見てください。」


机の書類の上で、トントンと指をたたく沢田。

僕は自然に沢田の近くに行って、その書類を覗き込んだ。



「これは…」


「キャバッローネファミリーと一緒に進めてた南米のプロジェクトです。
さっき現地から連絡がきて、予定の資金じゃ足りないそうなんです。」


「君たちの読みが甘かったってわけ?」


「いえ、この程度なら想定内です。
ディーノさんも以前に同じ意見だと言ってたので、得に問題はないと思います。
でもいちよう大きな金額が動くので、幹部が行かないとキャバッローネに失礼ですから…。」


「で、なんで僕?」


「他の守護者は全員いま手が離せなくて、」


「獄寺隼人は?」


「それは…」


一瞬、沢田が口ごもったのを僕は見逃さなか
った。






ああ…そういうことか。






「そうだね…獄寺隼人は君のお世話で忙しいらしい。」


耳元であざ笑うようにつぶやくと、沢田が少しだけ殺気を僕にむけたのを感じた。





「別に世話をしてもらってるわけじゃないです。」

低い、殺気のこもった沢田の声。

…さすがはボンゴレ10代目といったところか。
中学生のことの沢田の強さは不安定だったが、今の沢田は死ぬ弾なんてなくてもこれくらいのことは容易い。




「お互い同意のうえ?
それで?
君のかわいいお嫁さんはどうするわけ?」


僕の言葉に、沢田の頬が少しだけひきつるのがわかった。


「…彼女とはまだ何の関係もありません。」


「『まだ』ね。
でも9代目直々の紹介を、断るわけにもいかない。
近いうちに婚約だってするんだろう?

それを隠して、関係をもって…獄寺隼人を何だと思ってるわけ?」





「…っ、ヒバリさんに関係ないでしょう!?」


バンッ、と抑えきれない感情を拳で机にぶつける沢田。







部屋の端のソファーで沢田を舞っていた獄寺は、めずらしく声を荒げる沢田をポカンとした顔で見つめる。


「ど、どうしたんすか十代目…?」


小さい声で話していたから、何も聞こえていなかったのだろう。

きょとんとした表情の獄寺隼人を見ると、少しだけ胸が痛む。

…彼と僕の境遇は、ほんの少しだけ似ているから。





「あ……いや、なんでもないよ、獄寺君。」


獄寺にごまかすように笑いかけたあと、沢田は僕をギロリと睨み付けた。









「…まあ君たちがどうであろうと、僕には関係ないけどね。」

獄寺隼人が違和感を抱かないように、声を普通のトーンにして答える。


が、沢田はこわばった表情を変えない。




「…何が言いたいんですか、ヒバリさん。」


「事あるごとにキャバッローネが僕を名指しすることに、君は何も思わないのかい?」


「ディーノさんとヒバリさんは師弟関係なんですから、自然だと思いますよ。」


「ならなんでキャバッローネから名指しされてるって言わない?」


「そもそも前提から間違ってますよ。
名指しなんてされてないんですから。
スケジュールに一番余裕があるのがヒバリさんだっただけです。」


「さっき笹川がジョギングしてるの見たよ。
今日は一日トレーニングだ、とか叫んでたね。」


「……はぁ。
出歩かないようにって言っておいたんですけど…。

そうです、ディーノさんからヒバリさんを呼んでほしいって言われてます。
でも別にそれを何とも思いませんし、むしろ自然だと思います。」





「嘘だ。」




「!?」


「おいヒバリ!
詳しいことはわかんねぇが…
キャバッローネがよくお前を指名することはオレも知ってる。
別にオレも変だと思ったことはねぇし、十代目のそうおっしゃってるんだ!!」


「黙ってろ獄寺隼人。
超直感を持ってる君が気づかないはずがないんだ、沢田。」


「てめぇ…」


「獄寺君!
いいから…」



立ち上がった獄寺を止めて、沢田は僕のほうに向き直る。


…その目は普段のボスとは違う、悲しさをおびた目だった。



「…気づいて、ました。」


「あの人に奥さんがいることは知ってるよね?
結婚式にだって呼ばれてるんだから。」


「わかってます。」


「じゃあなんで止めない。」


「そこに気持ちがあるなら、オレには止められません。
許されないことでも…叶わないことでも、それでもそれを握りつぶせる権利なんてオレにはありません。」


チラリと僕の後ろの獄寺を見ながら、沢田は切なそうにつぶやいた。






「…君たちとは、違うんだよ。」






「え?」


「……なんでもない。
それよりけじめつけなよ。」



「オレだって…オレだって、どうしたらいいのか迷ってるんです。」


少し眉をよせて弱弱しく、沢田はポツリと答える。
うなだれたままの沢田に背をむけて、僕はドアに向かって歩き出した。









「おい、ヒバリ。」


眉間に皴を寄せた獄寺が、何か言いたげに僕の横に近づく。


「…そうだね、僕と同じ哀れな君にひとつ教えてあげる。」


「あ?」




 
「嘘つきに気をつけることだよ」




驚いた顔をした獄寺を横目で一瞥して、僕は部屋を後にした。




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