小さなお話し
□拍手置き場
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(※何十年か後のお話です
2人ともオジサンなので、ご注意ください)
自分と並盛と、強さ
それだけを基準にトンファーをふるっていたのは、もうずっと昔。
いつのまにか、日本の風紀財団とイタリアのボンゴレを往復するようになった。
僕は明日またひとつ年をとる。
ハッキリと数えてないからわからないが、たぶん40代中盤というところだ。
金は、それなりに趣味もある。
満たされる瞬間もあるし、それなりに充実した日々だとも思う。
たしかに若いころのあの燃えるような思いはすっかり消えたが、年を負ったことで得られた楽しみ方もたくさんある。
子供はいない。
それどことか妻もいない。
今でもほしいとは思わない。
まぁ、同僚のそういったたぐいの話を聞くと、少しだけ寂しさは感じるが。
恋人はいる。
でも僕と同性だから結婚はできない。
今さら男同士であることをどうこう言うつもりはない。
お互いにそれなりの年で、それなりに仕事も忙しいこともあって、昔のように頻繁に会うことはない。
「だからさびしい?」
そう聞かれたら、NOと答えるだろう。
自分が寂しいかどうかよくわからない。
どこかの中年のオジサンのように、日常が虚しくて自殺したいというわけでもない。
ただ何か欠けたものを感じていた。
足りない、のだろうか?
それさえもわからない。
毎日に疲れている、とも言えるかもしれない。
別にこの生活が嫌いなわけじゃなくて、むしろ好きなのだけど。
望んでいるはずの毎日に、息切れする気分。
「夜半に失礼します。
恭さん、お呼びでしょうか?」
「草壁から連絡は?」
「取引は重要だと、定時連絡がありました。」
「そう、さがっていいよ哲弥。
あとこの書類仕上げておいたから、後は頼むよ。」
「わかりました。
では。」
すっかり大きくなった草壁の息子の姿を、少し微笑ましく思いながら書類を渡す。
はやりの若者らしくワックスで跳ねさした髪は彼とは似てないが、性格や身のこなしはソックリだ。
そのままふすまを静かに閉めて出て行ったのを確かめてから、立ち上がって電気を消した。
…綺麗な夜だな、と思った。
真っ暗で星ひとつない空に、静かに満月がぽっかりと浮かんでいる。
しばらくぼんやりとその月を眺めたあと、特にすることもなく敷かれた布団に入った。
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