小さなお話し

□拍手置き場
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もともとマンションの最上階に住んでるから、普段から雑音はない。

それなりのマンションの最上階、しかもこの階は貸切にしているのだ。

下の階も普段は風紀で借りているから、残業をさせないかぎり静かにすごせる。


…はずだった。









「…よし。」


コタツよし。

みかんよし。

ちゃんと新しくいいお茶も取り寄せておいたし、ポットのお湯も完璧。



除夜の鐘を静かに聴く準備は整った。

ちゃんと並森神社に
「鐘の音が少しでもズレたり、聞こえにくかったりしたら…どうなるかわかるよね?」
という脅し…じゃなくて、忠告もちゃんと忘れずにしておいた。



「ふぅ…」


なんだかんだで浮かれて群れる草食動物が増える年末。
今日は昼間っから、ずっとその群れの噛み殺…取り締まりだった。

(もちろん夜も風紀委員には並森神社を中心にパトロールさせているから、雑音は大丈夫だ。)



そのぶんいつもの倍は疲れた足を、暖かいコタツの中でのびのびと伸ばす。


お茶をいれて、みかんの白いのもちゃんと剥いて。

現在時刻は11時59分。





(今年は、さわがしい年だったな)




ふいに今年を振り返ってみる。

(そういえば…あの人、大丈夫かな)


ふいに浮かんだのはあの人の顔。




「年末は仕事が忙しいから、クリスマスは一緒にいよーぜ!!」
とかいって24日の夜にあまりにもしつこかったから、噛み殺して雪の中に放置したっきりだ。




(あれから連絡ないけど…風邪とかひいてないかな…
…ちょっと僕も酷かったかな)



ちょっとだけ、反省してみたり。








その時だった。

…なにか、低い音が聞こえる。

そう…ハリウッド映画で聞くヘリコプターのような、









ゴンッ


「きょーやーー!!」



窓のほうから、鈍い音と、何かの叫び声が聞こえたような、気がする。




(…うん、気のせいだ)


「きょーや−!!」

「ボス、やっぱ窓壊す道具もってくか−?」

「大丈夫だって!!
なー恭弥!!開けてくれよ!!」


「…はぁ。
わかった、まってて。」




(…開けなかったら、壊すってことじゃないか)

心の中で悪態をつきながら、カーテンをあけて窓を開けた。
温厚そうな顔をしていてもマフィアのボスなのだ…本当に窓くらいあっけなく壊しかねない。





「あけましておめでとう、恭弥!」


えへへ、きちゃった、と笑うディーノ。





ベランダに立つディーノの後ろをみると、そこには去っていくヘリコプターの姿。

ディーノが降りたらしいロープが、ぶらさがったままだ。


「…バカじゃないの。」

「ん?」

「ほんとうに…ヘリで来たの?」

「へへ、驚いただろっ?」


得意そうに言うディーノに、頭がクラッとした。



「はぁ…もういいよ。
さっさとあがりなよ。」

「ありがとな。
おじゃましま…」

「靴、脱いでね。」

「…あ、わりぃ。」



そんな会話をしながら、ふと時計を見ると12時4分。




「…ちょっと。」

「どうした?」

「年、越しちゃったじゃないか。」

「だってオレ、12時ちょっきりに降りてきたんだぜ?
今年初めて会ったの、恭弥。」



いつのまにかちゃっかりコタツにはいってミカンを食べてるディーノ。

口いっぱいにほおばって、あまりにも幸せそうに笑うから。



「うん…僕もだよ。」



常識がないとか、こないだのことは怒ってないのか、とか。
…言いたいことたくさんあったけど。

どうでもいいなって思った。







(願わくば、今年もあなたの隣にいれますように)







 ** A HAPPY NEW YEAR 2010**

〈2010.1.1 A Happy New Year〉

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