小さなお話し

□見えない手
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…あたたかい。


体だけじゃない…空気が、暖かい。





「だいじょ……かね、じゅ…め?」

「でも…い……のな。」

「わかん…んだ。
……さんが、…………た…けど。」





聞いたことある声に目を覚ますと、見覚えのない天井だった。



「ヒバリさんっ!」

「おっ、お目覚めなのな。」

「チッ…心配かけやがって…。」


ぼんやりとした頭で回りをみると、いつも群れてる3人の顔が見えた。




「…ここは?」


「あ、オレの部屋ですっ。
ヒバリさん突然倒れられたので…」


「十代目のベットはお前にはもったいねぇ!
はやくどけ!!」


「獄寺君、けが人の前だからっ!!」


「大丈夫っすか、先輩?」



十代目のベット…ということは、此処は沢田の家ということか。

なんで僕はこんなとこに…
なんで、



「…あ……」


「あ"?どうしたんだ、ヒバリ…」


「もう少し寝てた方がいいのな。」


「…」


「えっと…2人ともごめん、席をはずして…」



沢田が困ったように2人に言おうとしたときだった。

”ピンポーン”

玄関のチャイムがタイミングよく鳴った。




「あ、きっと母さんが帰ってくたんだ。
獄寺君、悪いけど玄関開けてきてくれる?」


「十代目のお母様をお迎えできるなんて光栄です!!」


「んじゃあオレみ獄寺と一緒にいくなっ!」


「なんでてめーまで来るんだ、野球バカ!」


「まあまあ…チビたちもいるだろうし、獄寺じゃ相手できねーだろ?」



声をあげえ反対する獄寺の背中を押して、山本は自らも部屋の外に出る。



「じゃーな」

まかせておけとばかりにバチンとウインクして、パタンとドアは閉まった。














ドアが閉まったのを確認して、沢田はゆっくり口を開いた。


「…すみません。
ヒバリさんはちゃんと言ってくれたのに、何もできなかった。」


「……ヒバード、は?」


「並中の応接室の近くの桜の下に埋めておきました。」


「そう…。」


「…ヒバリさん、」


「迷惑かけたね。
…今までは秘密にしてたけど、明日から風紀委員に自宅周辺を警備させるよ。」


「いえ、あの、」


「お礼は後日ちゃんと風紀から正式にさせてもらうよ。」


「そうじゃなくて…
…オレ、犯人に心当たりがあるんです。」





「……………え」



思考が、停止する。



「でも…っ、それを知ったらヒバリさんはきっと悲しみます。」


「僕が?」



思わず、うろたえてしまう。
だってそうだろう?

僕が悲しむということは、つまり僕が知っている人間ということ。



「それでも、聞きたいですか?」


「…」


「犯人は、
…ディーノさんです。










…とでも言うのか、ツナ?」


「「!?」」


声のほうを見ると、いつのまにか開いたドアの前で微笑むディーノが立っていた。


「酷いなぁ、ツナ。
オレのことそんなふうに見てたのか?」


「ディーノさん…」


「…恭弥、危ないからこっちこい。」



スッと目を細めて真剣な顔つきになるディーノ。
視線を沢田に向けたまま、こっちに手を伸ばす。



「ヒバリさん、ダメです!!」


「さっきからいいかげんにしろ!
わかってるんだ…全部お前だったんだろ、ツナ!」


「な!?」


「そんな…そんなこと、ない!
だって沢田は、ヒバードを…」


「じゃあ、それはなんだよ!」



シュッと音をたてて、目の前を飛ぶ鞭。
「わっ!」と声をあげて身をひいた沢田のジャケットを、彼の鞭が切り裂く。



「な、に…」




床に落ちたのは、白い封筒と写真。
散らばる写真に写っているのは、黒い髪の人物。

書類を前にペンを額にあてている姿
どこかのヤンキーを殴りつける姿
カメラ目線のものもあれば、ぶれた後姿まで


ぜんぶ、僕




「!!
ち、ちがいますヒバリさん…!!」


「そん…な…」


「騙されないでください!
これは…」


「獄寺と山本もグルなんだろ?」


「っ、2人は!?」


「下で寝てるぜ。
生きてるかどうかは、わかんねーけどな。」




瞬間、ピリッとした殺気が沢田から発せられたのがわかった。



「…いくらディーノさんでも、許しませんよ。」


「許す気なんてあったのか?
オレはさらさら無いな。」


「俺も、今はもうその気持ちもありません…。」


「オレは今、リボーンが留守にしててくれたことに感謝してるとこだ。
キャバッローネが手を出したと思われるのは困る…目撃者がいなければ、罪には問われねぇ。」



鞭をかまえるディーノと、グローブをはめようとする沢田。

静けさと痛いほどの殺気が、部屋に立ち込める。



「ヒバリさん、すぐに終わらせます。
だから大人しく…」


「な…で……」


「ヒバリ、さん?」


「…あなた、が…ど…して…っ、なんで、こんなこと…っ!」


「違います、ヒバリさん!
たしかに!!
たしかに…オレはヒバリさんのことをずっと…すきでした…。」


「っ、」


「見てるだけでよかったんです。
届かない存在だって、わかってましたから…。

なのに…ディーノさんと付き合ってるって聞いて…
せめて気持ちだけ伝えたくて『好きです』って書いた手紙を、送りました。

でも信じてください!
オレは…っ、


言葉をさえぎるように再び鞭が空中を飛んで、今度は沢田の喉を締め付ける。


「ぐっ……!!」


「さ、沢田…」


「恭弥、自分でケリつけろ。」



鞭を握る手をは逆の手で、僕がいるベットの上にディーノは何かを投げた。



白いシーツに映える、黒いそれ。

赤ん坊がいつもソレを使っていたのを、思いだす。



「こ、れ」


「拳銃。
もうトリガーをひけば、撃てる状態になってる。」


「で…できるわけ、ない…!!」


「なんでだ?」


「だって…さ、沢田は、『仲間だ』って言ってくれた!!」


「群れたいのか?」


「違う!!
違う、けど…っ!」


「聞いただろ、恭弥?
仲間だって?笑わせる!
恭弥、こいつはお前を騙してたんだよ…!!」


「…っ」


「オレは…オレは、恭弥を騙したツナが許せねぇ!!
大事な弟分だと、思ってたのに…っ!」


「ち、ちが……ぐっ!!」



ディーノが鞭を握る手に力を入れる。

力を入れているからか、それとも怒りからか。
その手は小刻みに震えている。



「でも…だから、恭弥が撃つべきだ。」


「ぼく…が…」



自然に、視線が拳銃に向く。

いつもトンファーしか使ってないから、銃に触れるのは初めてだった。
…ううん、こうやってしっかりと見たこともなかった。


そっと触ってみると、冷たくて硬い…トンファーに似た感触。
これが人を傷つけるものだからだろうか?

ただただ無機質なそれは、白いシーツに深く沈んだまま。




何もかもが静止した空間で、ふいに何かが動く気配を感じる。
いつのまにかすぐ隣にディーノがいて、耳元でそっとささやいた。





「手紙も写真も、ヒバードも…全部こいつのせいだ。」




ゆっくりと、低く響く声。


「ヒバ…リ、さ…」


遠くで誰かの声が聞こえたけど、僕の意識の中には入ってこない。

響くのは、その声だけ。



「ぜんぶ」


「ぜん…ぶ…」


「こいつのせいで」


「こいつの、せい…で…?」



気がつけば、僕はいつのまにか銃を握り締めていた。

銃口の先には沢田の目を見開いた顔。






小さな弾ける音

飛び散る赤

温かい何かを浴びて




僕は意識を失った。

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