小さなお話し

□見えない手
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恭弥

恭弥

愛してる

こんなにも、愛してるんだ

恭弥のしぐさ、行動、声

目も髪も皮膚も血も骨も臓器も、全部愛してる

食べてしまいたいくらい

壊してしまいたいくらい




小さな白い理性は消えて

黒い欲望だけが大きくなっていく




























「はぁ…」


けっきょく、ホテルでもあまり眠れなかった。
かといって今いる応接室でさえ、今の僕にとっては安眠できる場所ではない。


「……草壁たちに、家を見張らせようか。」


もうプライドとかにかまっている場合ではない。

こんな…食事でさえ喉を通らないのが続くのは、身体的に持たない。



とりあえず目の前の書類を片付けようと、イスに座りなおした時だ。









「恭弥」


ディーノがふいに、背後の窓から顔を出した。


「…ッ」

「?
どした??」

「いや……ちょっと驚いただけだよ。」





恭弥

その呼び方があの手紙と重なって、僕はあと数秒で叫びそうになるところだった。


…本当に、自分でもおかしくなってきていると思う。

別にこの自称家庭教師が気まぐれに応接室に訪れることなんて、珍しくもないのに。




「恭弥が気づかなかったなんて、めずらしいな。」


「僕だって、考え事くらいするよ…。
それより、なんでここに?」


「愛しい恋人に会いにくるのに理由がいるか?」


「今の時期、仕事忙しいんじゃなかった?」


「日本で仕事あったんだよ!
さぼったわけじゃねーって!!」


慌てたように、ディーノが手を胸の前で手をぶんぶん振る。


「そう…なんだ。」


「…本当にどうした?
なんか恭弥、変だぞ?」


「なんでもない、よ。」


「嘘つけ…なんか前より痩せてるような気するし…顔色も悪いぜ?」


「ちょっと体調が、悪いだけだよ。」


「体調が悪いときは、寝るのが一番だ。
よかったら家まで乗せてくけど…」


「いらない…っ!!」





あの自宅を思い浮かべると、気分が悪くなる。

…嫌だ。

でも…こんなにもあんな嫌がらせに動揺している自分も、嫌。




「きょ、」


「出てって!!」




そう叫ぶように言って無理矢理に窓を閉めて
、悲しそうな顔をしたディーノを窓の向こうに放置したままカーテンを閉めた。





「…ッ」




もう、だめだ。

このままじゃ…おかしくなる。



今日だけ…今日だけ一度家に帰ろう。

全部綺麗にして、荷物をまとめてホテルに泊まる。

後のことは風紀に処理させる。



「、」



僕はしばらく膝を抱えてうずくまっていたが、しばらくして立ち上がって応接室を出た。





(さっさと終わらせた方がいい)



そう、これで全部終わる。



なのに





この嫌な予感はなんだろう?

























「はぁ…はぁ……は……はぁ」


いつのまにか走っていた僕は、家の前のポストに何も突っ込まれてないことに安堵の息を漏らした。


(今日はいつもよりずっと早いから、何もないかもしれない)


そう思って、家の門を開けたときだ。





玄関のドアの前に、あの白い封筒が置いてあった。




「…ッ、」



震えるな
怖がるな…こんなの、僕じゃない。


声が出ないように下唇をギュっとかみ締めて封筒を開くと、書いてあったのは一文だけだった。





『なんデ、おれにハいっテくれナい?』


思ったより短い文章に、息を吐こうとした時だ。





封筒の中に、黄色い羽が挟まっていることに気づいたのは。





『ヒバリ!ヒバリ!』
嬉しそうにさえずる、ヒバードの姿が思い浮かぶ。







そんな、まさか、








震える手でドアのぶを掴むと、鍵は開いていた。







ドアの向こうにあったのは、ぐちゃぐちゃになった血の塊と飛び散った黄色い羽。










「っ…!!」


頭が真っ白だった。

叫び声は音にならずに、僕の喉を通り抜ける。



ただそれを見たくなくて、僕は反射的にドアに背をむけて道路に出た。




「は……ぐっ……」


ヨロリと道路に出て、電柱に背中をぶつかる。


「い…っ」


嫌だ

いやだ…いやだ…!!







「ヒバリさんっ!?」


最後に見えたのは沢田綱吉の驚いた顔だった。



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