小さなお話し

□もう届くことないその背中に、
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舞いながら降り注ぐ白

揺れる金色

願い続けて思いつづけて、渇望した色がそこにはあった。






「なん…で、」




今は、できれば会いたくなかった。

君のことを思いだしていたから、…気持ちが溢れそうになる。




「ツナたちのクリスマスパーティーに呼ばれてな。
ちょっと顔出しにきたんだ。」


へへ、と嬉しそうに笑う笑顔が、思い出の中の姿と重なる。

記憶の中の彼より少しだけぎこちないのがちょっとだけ悲しい。







会いたくなかった?

でも…
…会いたかった。

コトバでは言えなくても、伝えることができなくても、たしかに僕は彼を思い描いていた。






ふいに出そうになった涙をこらえるように、適当に彼に声をかける。


「…あなたの、ファミリーのほうのパーティーは?」


「うん?
ああ、あっちは明日の夜に行くつもりだぜ。
去年オレが25日のほうに顔出したから、今年も明日が本番になったんだ。」


「…そう…なんだ」




彼の声が聞こえているはずなのに、どこか現実味がない。

まるで幻のように思えて何度もまばたくをしたが、ディーノは確かにそこに立っていた。





「恭弥はどうした?
クリスマスイブまで仕事三昧か?」


「…悪かったね。」


「いや、恭弥らしいなーって。」


「僕らしい?」


「ほら、クールっていうか…ストイックなイメージ。」


「何そのイメージ。」




ムスッとしてディーノを睨みつけると、クツクツとディーノが笑う。

どこかぎこちなかった空気が、昔のように暖かくなる。






「…あ」


「ん?」


ふと見ると、ディーノのまつげに雪がついている。

僕は特に深い意味もなく、自然に彼のほうに手をのばした。


















パンッ


綺麗な音をたてて、ふいに伸ばした手が何かに弾かれた。


「…ぁ、わり…」


反射的に手を出してしまったのだろう、ディーノは自分でも驚いた顔をしたまま僕に言った。




「…っ、雪が、ついてる。」


「あ、ああ…ありがと。」



あわてて目をごしごしとこするしぐさをするディーノ。












その指に光る銀色の指輪を見た瞬間、頭が真っ白になった。











「それ…」


こぼれるように、白い息を一緒に出た言葉が空気に溶けていく。




「あ、ああ。
…結婚するんだ、オレ。」




取引先のお嬢さんで

結婚すればキャバッローネは莫大な資金援助をしてもらえて

…ファミリーにとって、これとないいい話で



ポツリポツリとうつむいて話すディーノの声が、どこかボンヤリとした頭で反響する。





「結婚式には、ちゃんと呼ぶからな。」




幸せそうな声をききながら、僕は彼の顔を見ないように必死に目線をそらしていた。











殺してしまいそうになるかと、思った。

ただ予想していた感情はいつまでたっても訪れず、ただ震えてしまいそうな声を必死で押し殺す。





「…そろそろツナの家に行かなきゃいけねーから。」


「…そう。」


「じゃーな。」




くるりと向きを変えて歩きだすディーノをみて、瞬間的に喉に空気がヒュッと通る。










「」



音にならない悲鳴を

伝わることのない気持ちを










「あ、そーだ。
メリークリスマス、恭弥。」

ふいに振り返ったディーノが、微笑みながら言った。



「…明日は会えないから、さ。」


それからまら前を向きなおして、何事もなかったように彼は歩いて、そのまま見えなくなった。











ぼんやりとその後ろ姿が消えるのを見届けた後、僕は向きを変えて目的もなく歩きだした。




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