小さなお話し
□もう届くことないその背中に、
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別れの後に残ったのは、小さな後悔と変わらない思い。
離れれば自然に消える…そんな考えはまったく甘いもので、会えなくなったぶん思いは増すばかり。
やってきたのは、たまった思いを発散するように、思考を働かせないように、ただ感情にまかせて人を殴る毎日。
…そんな中でも「一般人には手加減しろ」とかいうあの人の言葉がひっかかって、風紀を乱している生徒でさえ殺すことはできないのだが。
彼と顔を合わすことが極端に少なくなったことで、この狂いそうな自分を知られる心配がなくなったことだけが唯一の救いだ。
彼とたまたま偶然顔を合わすことはあっても、沢田たちがそこにいて…だから僕も自分を演じていられた。
でも、たしかに距離と時間をおいたのは正解だったのかもしれない。
たしかに黒い感情は消えることはなくても、一歩でも間違えれば何もかも壊しそうになる衝動は時間をおけば確かに治まっていった。
ただ時折、どうしようもない孤独が僕を貫くだけで。
「これでいいよ。」
「わかりました。
ではこの方向で進めておきます。」
彼とすごしたクリスマスイブから2年。
今年のクリスマスイブはというと、予定もなくただいつものように仕事をしていた。
窓の外を見ると、もうあたりは薄暗い。
「じゃあ、僕は帰るから。」
「お疲れ様です、委員長。」
学ランを肩にかけて、お辞儀をする草壁を応接室に残して廊下に出た。
瞬間、刺すように冷たい空気が頬に触れて、少し驚く。
応接室はストーブで温まっていたから感じなかったが…一昨日から雪が降っているだけあって、相当寒い。
(今ごろ、どうしてるかな)
あれからもう2年も時間たったのに、何かあるとすぐにあの金色を思いだしてしまう。
忘れようと何度も決めるのに、何度でも気づけば彼を思っている自分がいて。
離れていなければ本当に壊していたかもしれないと安心する一方で、喉に焼け付くような渇きを覚える。
…それが満たされることがないと知っているからこその虚しさが、渇きをも麻痺させてくれるのだが。
「はぁ…」
白い息を両手にはくと、どうしようもない孤独と寒さが僕をおそう。
…あのキラキラとした思い出は、僕にはまぶしすぎる。
もう手を握ってくれる人がいないというだけで、ここまで寂しく感じてしまう自分さえも嫌になった。
両手をじっと見つめていると、小さな雪の結晶が僕の手のひらの中に舞い降りて、溶けていく。
(はやく、帰ろう)
はやく帰って、暖かいお風呂に入ろう。
夕食は…食欲がないからスープとかでいい。
ベットに入って、何も考えないうちに眠ってしまおう。
思い出と現実から逃げるように足を速めると、ふいに声が聞こえた。
「きょーや!」
聞きなれた懐かしい声。
反射的に振りむくと、そこには金色の彼がいた。
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