小さなお話し
□もう届くことないその背中に、
2ページ/5ページ
きっと、お互いに愛し合ってた。
気持ちは一緒だった。
…ただ、愛し方が違っただけ。
彼は人間という生き物が好きで、根っこからボス気質で。
根本的に、僕とは違う。
たとえば、彼は僕の心配はしても風紀委員を辞めてほしいと思わない。
一緒に時間を共有したいとは思うかもしれないけど、それはあくまでお互いに自分の大切にする世界がある中で、それを壊したいとは思わないだろう。
僕は彼を束縛したくて仕方ないけど、彼は違う。
自分らしく生きる僕が好きなのであって、束縛された僕には見向きもしないのだろう。
ディーノは『会えて嬉しい』のほうが大きいけど、僕は『会えなくて苦しい』のほうが大きい。
ディーノは一緒に生きてきたいと言うけど、僕は一緒に死にたいと思う。
…小さな違いが、大きな溝になって。
だんだんとすれ違っていって、けっきょく心の中でこんなにも激しくすべてに嫉妬してしまう。
…このままじゃ、壊してしまうと思った。
僕も、君も。
夕食を食べてから、クリスマスソングが流れる町をブラブラ歩いて。
立ち寄った人気のない小さな公園のベンチで、僕はその言葉を口にした。
「…別れよう。」
予想通りに目をまんまるにして、固まる彼
。
「…は、……ちょ、どうしたんだよ…?」
おもしろいくらいに予想通りの反応をするディーノが、愛しくて内側の僕が笑う。
「…ごめん。」
「なん、でだよ……なんで!!」
ごめんね、ディーノ。
このままじゃきっと、僕はおかしくなる。
君を壊したい衝動を抑えきれる自信がないんだ。
…そんな自分を見せて、嫌われるのが怖いんだ。
「…ごめんなさい。
好きな人が、できたんだ。」
呆然とした表情から、信じられないという顔をして、苦しそうに顔を歪めた。
「…いつ、からなんだ?」
「…自分でもわからない。」
「そう、か。」
あ、泣きそう。
でも我慢してくれてるんだ…今泣いたら、僕が傷つくから。
そんな表情しないでほしい。
…愛おしくて、抱きついてしまいそうになる。
「そうか…そう、なんだ、」
「ディーノ…」
一生懸命言い聞かせるように、ディーノが悲しそうにつぶやく。
「…片思い、か?」
「…ううん。」
「…恭弥。
幸せになれよ。」
無理だよ、ディーノ。
僕はあなたしかいらない。
あなたがいないと、幸せになれない。
でも僕が求めれば、優しい貴方はすべて僕に与えてしまう。
だからどうか…まだ僕がおかしくないうちに、嫌いになって。
嫌いにならないで
嫌いになって
「じゃあ、な。」
悲しそうに揺れる瞳を飾るまつげが、震える。
僕に背をむけてその場を去ろうとする彼の背中に、そっと寄り添う。
「……ごめん」
「…ああ」
しばらく彼はそのまま立ち尽くし、それからゆっくりと僕に背を向けたまま歩き出す。
どうしようもないない虚無感とか苦しさがこみあげる中で、唯一残っていた体温さえ雪に雪に奪われていった。
.