小さなお話し
□その言葉が、ほしかった
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リング争奪戦が終わって、少したったころ。
とうとうオレは我慢できずに恭弥に告白してしまった。
…「愛してる」って言った瞬間に、見事に顔面にトンファーをくらってしまったが。
だからといって諦められるはずもなく。
何度も何度も告白して、183回目にしてやっと恭弥から「まあ、付き合ってあげてもいいよ」という返事をもらった。
…なのだが。
「きょーやー。」
「嫌。」
「だって、オレ達付き合って3ヶ月だぜ?」
「それで?」
「キス、したいんだけど…」
「絶対ヤダ。」
「じゃあせめて『愛してる』とか『好き』とか…」
「僕が言うわけないじゃないか。」
バカじゃないの?とばかりにギロリとオレを睨む恭弥。
そう…いまだに恭弥は、オレが好きなのかよくわからない。
言葉も言ってくれないし、キスさえ許してくれない。
触れるのは許してくれるが…人前で手をつなごうとした時なんて、殺されるかと思った。
今だって、オレが一方的に応接室に押しかけてソファーに座って。
恭弥は自分のデスクで仕事に夢中だ。
恭弥は中途半端なことも無責任なことも言わない。
わかってるけど…本当にオレ達は付き合っているのか・・・?
「…恭弥、オレのこと好き?」
「いちいち聞かないでよ。」
「…」
「………どうしたの?」
黙り込んだオレを不思議に思ったのだろう。
ためらいながら、恭弥はオレに聞いた。
「うん…」
「ハッキリ言いなよ。
…付き合って、るんでしょ?」
「…好きって、言ってくれよ。」
「…なんで?」
「言葉にしてくれねぇと、不安になるんだ…。」
なんか…オレ情けねぇな。
あれだ、なんか「もっと私にかまってよ!」とか言って怒る女みてぇだ。
重いかな、オレ。
恭弥がうっておしくなっても、仕方ないかもしれない。
考えながら落ち込んでいると、いつのまにか恭弥はオレの側にきていて、ボフッと音をたててオレの隣に座った。
「…嫌じゃ、ないから。」
「何が?」
「キス…嫌なわけじゃないよ。」
いきなりの言葉に驚いて恭弥の方を見るが、オレの腕に額を押し付けるようにして恭弥は顔を隠す。
ぐりぐりとなんだか甘えられてるみたいで、めちゃくちゃかわいい。
「でも…」
「でも?」
「……どうすればいいのか、わかんない。」
顔は見えない。
…けど、髪から見える耳は真っ赤にそまっている。
恥ずかしがってる、のだろうか。
「恭弥、キスしたことねぇの?」
「…健全な中学生は、そんなことしないからね。」
少しムッとした口調だったから『殴られる…!?』と思ったものの、恭弥はオレの腕から離れなかった。
「オレのほう向いて、目を閉じてくれればいい。
オレがいちから教えてやる。」
「…そんなこと、できない……。」
「どうして?」
「は………ずかしい……から…」
「お前の家庭教師を信じろよ。」
できるだけ怖がらせないように優しく言ってみると、意をけっしたように恭弥は顔をあげた。
数秒困惑したようにオレの顔を見てから、ギュッと目をつむる。
柔らかいの頬にそっと触れると、体がビクッと反応して耳まで真っ赤に染まった。
…緊張してガチガチにになっている恭弥が、愛しくてたまらなかった。
言葉で伝えるのは大切だ。
でも、それ以上に恭弥は全身で伝えてくれるから。
だからオレは、迷わずに恭弥にその言葉が言える。
「愛してる、恭弥。」
桃色の唇の感触を何度も確かめながら、オレはただこの幸せが続けばいいと思った。
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