小さなお話し

□そんな言葉、聞き飽きた
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「恭弥っ!」


「…何?」


「いや、嬉しいなーって。」




二へ二へと隣で笑うディーノは、その整った顔をだらしなく緩ませながら歩く。



夜中に僕の家に来ていたディーノが、「アイス食べたい!」と言ってコンビニに行った帰り道。

さすがに夏とはいえ、12時にもなればあたりは暗い。





「…なんでそんな嬉しそうなの。」


「だってさ、恭弥と手つないで歩けるなんて。
いつもはダメって言うのに。」


「…」





別にいつもだって手をつなぎたくないわけじゃない。

ただ、人に見られたくないだけで。

こんな暗闇なら誰にも見られないからいいと思ったけど…間違いだった。


アイスが溶けるのもかまわず、ディーノがわざと遠回りな道ばかり歩いていくのだ。






「…ねぇ、アイスとける。」


「アイスなんて安いもんだ!
恭弥はオレとアイスどっちが大切なんだよっ!?」


「あいす。」


「!?!?」


「…あなたが、食べたいって言ったんじゃないか。」


「…だって。」


「もったいないでしょ。」


「手はなす方がもったいない。」





ぶーっ、と怒ったように頬を膨らますディーノが子供っぽくてかわいい。




「…バカじゃないの?」


もちろん僕は素直に言えるはずもなく、プイッと顔を逸らしてしまう。



バカなのは、僕じゃないか。
本当は嬉しいくせに。






「ほんとに恭弥はツンデレだなー。」


「つ、ツン…!?」







「愛してるよ、恭弥。」







どうしようもなく、好きだった。

彼の言う『愛してる』という感情は、その頃の僕には理解できなかった。


でも、それでも彼のその一言は魔法のように低く綺麗に響くのだ。



なんでだろう…
別にそこらへんの女子生徒や男子生徒に「好きです」なんて言われても嬉しかったことなんてないのに。





始まったときから、ずっとその一言が好きだった。






…好きだった。



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