小さなお話し

□雨と薔薇
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梅雨の時期は嫌いだ。

傘を持ち歩くのが面倒だから。

あと、湿った空気も嫌いだな。


曇った空も。










十代目の家に向かっている途中だった。

ふと視界にはいった、黒くて丸い頭。


「…ヒバリ?」


駅前の噴水に座っていたのは、ヒバリだった。






駅前は並盛の中で一番発展しているところで、建物や人もたくさんある。

もちろん今日みたいな休日の昼間ともなれば、人はかなりたくさんいる。




他の待ち合わせをしている人たちに混じって、彼が私服でそこに座っているのだ。

普段だったら問答無用で回りの人間を殴りつけているのに、ヒバリはおとなしくそこに座ったままだ。












最初は性格が違ってオレと仲がいとはいえないヒバリだったが、最近になって共通の秘密を持つ俺たちの距離は深まっていた。




オレは山本と、ヒバリは跳ね馬と交際している。

…つまり、男同士の恋人だ。




ちょっとしたきっかけでそれを知ったオレ達は少しずつ話すようになって、今ではなんだかんだ言ってけっこう一緒にいたりする。














黒の薄いジャケットに白いシャツ、ネイビーのボトムを穿いたヒバリは回りの人間ととけこんでいる。


黙ってヒバリの前に立つと、気づいて顔をあげた。





「…獄寺隼人。」


「ヒバリの私服なんてめずらしいな。」


「僕だって制服以外の服だって持ってるよ。
君はあいかわらず首にぶら下げて…重くないの?」

そう言って俺の首のシルバーのアクセを指差して、眉をひそめる。


「重くねぇよ。
待ち合わせか?めずらしいな。」


「…うん。」


「跳ね馬か?」


「…そうだよ。」


「あいつこっち来てたんだな。
…ったく、十代目に顔くらい出してけよ。」


「そういう君だって山本武と会うんでしょ?」


「ば…そんなわけねぇだろ!
俺は十代目の所に…」


「でもどうせ沢田の家に山本武もいるんでしょ。」


「…」


「…楽しんできなよ。」


「お前もな。」







そういいのこして、俺はヒバリに背を向けた。


少し歩いてからなんだか変な感じがして、ヒバリの方に振り返ってみる。

ヒバリはどこか遠くを見たような感じで、こっちにはまったく気づいていない。



…そんなに嬉しいのかよ。




どこか微笑ましく思いながら、俺は十代目の家に行った。







別にいつもと何も変わらなかった。

でもなんだかヒバリがいつもと違って見えて。



一人で座っているヒバリの姿が、どうしても頭から離れなかった。



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