小さなお話し
□大人の事情と子供の関心
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十年後の世界にきた雲雀さんとディーノさんの特訓初日のお話です。
指輪の炎の原理。
炎をエネルギーとして可動するボックスという兵器。
ボンゴレとミルフィオーレというマフィア間の抗争。
けっきょく何もかもはっきりしないまま、
「これが十年後の世界だ」
なんて説明を受けた。
最初は驚いたが、たしかに今の状況を説明するには理屈は見事に合っていた。
普通に説明されただけなら、
「バカじゃないの」
と噛み殺すこともできる。
けど実際に今の僕の回で起こっているとなれば話は別だ。
ガラクタかと思っていたリングによる炎で、あの不安定だが強大な力をもつボックス兵器と呼ばれるものは可動した。
それにこの世界が十年後だというのも、信じるほかない。
少し見渡すだけでも、長い年月を経ての変化がたくさん散らばっていた。
「恭さん。」
ましてや副委員長である草壁哲也にまでそう言われたら、変化を認める他どうしようもない。
顔はもともと老け顔だとは思っていたが…更にオジサンになって、体つきが大きくなって筋肉もついていた。
一番変わったのは、その雰囲気だ。
10年前でも十分しっかりしているように見えたが、本当の裏の世界を知った彼の空気は過去とはまったく違って見えた。
並盛中の風紀委員がいつまでもできるわけがないと思ってはいた。
だが『風紀財団』と名を変えてもその場所が残っていたことは正直ほっとした。
多くの風紀委員たちがそのまま僕についてきてくれていた事は、ほんの少しだけ嬉しかったりもする。
風紀財団の基地の中は静かで、草壁が気を遣ったのか知っている顔の部下たちばかりだった。
それでも…知らない場所は落ちつかないし、知っている人だからこそ十年前と比べてしまってなんだか居心地が悪く感じた。
「待ってください!
何処に行かれるんですか?」
「僕の自由だよ。」
「ミルフィオーレは町から出て行ったと報告されていますが、それでもまだ危険です。
それに恭さんも十年後の世界の戦い方をまだ…」
「問題ないって言ってるでしょ。
来たら君でも噛み殺すから。」
草壁の判断が正しく冷静であることも、わかっている。
たしかにそこらへんのチンピラに負けるほど弱くはないが、この世界の戦いに慣れていないのも真実だ。
自分で子供っぽいと自覚はしていたが、それでも自分の知っている草壁じゃない大人っぽさがなんだか嫌だった。
「じゃあね。」
そう言って一人で外に出ると、たしかにそこは十年経っても並盛だった。
ところどころお店が変わっていたり道路が新しくなったりしていたけど、それでも僕の愛する並盛には変わりない。
なんだか歩くうちにソワソワした気分も落ち着いて、自然に並盛中学に向かって歩いていた。
並盛中学は、十年前と変わらずそこにあった。
校門は閉まっていたが、あっさりと乗り越えて中に入る。
応接室に行こうかとも思った…が、十年後の世界ではもう風紀委員ではないのだ。
きっと十年前のままの応接室なんてあるはずもない。
僕は応接室に向かおうとしていた足を止めて、屋上に向かうことにした。
長い階段を上がって扉を開けば、そこにはなつかしい風景があった。
地面のコンクリートも、鉄の手すりも少しだけ古くなってはいる。
けど、そこにはまったく変わらない青空が広がっていた。
あおむけにゴロンと寝転がれば、目の前は空でいっぱいになる。
「…変わってないのは、君だけかな。」
小さく言っても、十年前と変わらず空は返事をしてくれなかった。
変わりに、並中の校歌と共に羽のパタパタという音が聞こえてきた。
「ヒバリ!ヒバリ!」
可愛らしい声で鳴きながら、黄色い鳥が姿を現わす。
空中をくるくると回ってから、寝転がっている僕の顔の隣にチョコンと止まった。
「君、」
でも、十年間も…?
よく見ると少しだけくちばしの形が違うのに気がついて、はっとする。
「ああ…君はあの子の子供なのかな?」
不思議そうに首をかしげてから、鳥はまた校歌を歌いだす。
可愛らしい小鳥を好きなようにさせて、僕はそっとポケットに入っているボックスを取り出した。
そう…変わらないものは、たしかに安心できる。
でも同時に、変化の象徴ともいえるこのボックスに、僕はどうしようもなく興味があった。
あの時…眉毛の人との戦闘で開けたボックスには、ハリネズミが入っていた。
目がくりくりして、もう可愛いくて仕方がなかった…
…じゃなくて。
暴走したあの子の力は、並半端なものじゃなかった。
このボックスの中にも、ハリネズミが入っている?
もしくは他の動物?
どうしてこないだのハリネズミは暴走した?
このボックスをこの間のように開けても大丈夫なのか?
疑問は頭の中に山ほどあったが、僕はボックスを見つめるしかなかった。
「うわー!」
急に遠くから話し声が聞こえてきた。
声のする方を見ると、隣の校舎に複数の人影が見えた。
ギャーギャーと騒いで群れていたが、今はどうでもよかった。
群れを噛み殺すより、このボックスの方が大事だ。
彼らを無視して、じっとボックスの観察を続ける。
『…開いて、みようか。』
でも、またあのハリネズミのように悲しい思いをさせるのは可哀相だ。
あの時の暴走の原因を考えながらぼんやりとしていると、今度はすぐ頭上から声がした。
「あいつらいい顔してんな……
しばらくほっといても大丈夫そうだ。」
低い、成人男性の声。
しかも…ついさっきまで、気配がまったく無かった。
サッと戦闘体制になり、声のする方を見上げる。
「まあ待て、恭弥。」
見上げた先には、あの人とそっくりな人間が座っていた。
風に揺れる金髪
いつものファーのついた上着
ニヤリとしたあのムカツク笑み
「そうあわてなくても、みっちり鍛えてやっから。」
あの人とそっくりなんかじゃない。
この殺気、声、瞳
これは…十年後のあの人だ。
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