小さなお話し
□月に奪われた夢
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「…ッ!!
夢…か…。」
今日は久しぶりにあの夢を見た。
…小さい頃、親父は俺に月のお姫様の話をしてくれた。
俺はその話に夢中になった。
…でも嘘っぱちだった。
当たり前だ。
月なんて実際は穴だらけ。
酸素だってない。
でも、信じてた。
夜ベッドの中で目をつむって、毎日考えてた。
真っ暗な視界のなか、見たことのない彼女を思い描いた。
でも、嘘だった。
「月には誰もいません。
月には生き物は住めないんですよ、坊ちゃん。」
あの日、ロマーリオの言葉を聞いて、俺の中の何かは止まった。
だいぶ昔のことだが、どうやら俺にとってトラウマになってるらしい。
過去の夢を見て、うなされたことが今までも何度かあるのだから。
「ったく…馬鹿だよな、俺…。」
アイツがいないだけで、悪夢にうなされるなんて。
この夢を見たのは本当に久しぶりだった。
ちょうど、アイツと…恭弥と一緒に寝るようになってから、俺はこの悪夢を見なくなった。
恭弥は、ボンゴレの任務で今は日本にいる。
普段は「雲の守護者」といわれるだけあって、あまりそうした任務につくよりは単独の行動が多いため、恭弥が日本に行くのは約1ヵ月ぶりだ。
恭弥と俺は、恋人同士だ。
俺が恭弥と初めて会った時、恭弥は学生だった。
なんとも生意気な中学生で、そのくせめちゃくちゃキレイで、一目ぼれしちまった。
といっても当時の俺は何人も愛人がいた。
本気で人を愛してたことなんて全然なくて、恭弥のことも最初は遊びだった。
でも会う度に、どうしようもなく惹かれていった。
彼と話すたび、止まっていた何かがまた動きだせるような気がした。
「なぁ…恭弥…」
「何?」
「…月にお姫様っていると思う?」
「は?」
「だからお嬢様!
月にいると思うか?」
「キミ、馬鹿じゃないの?」
ああ、やっぱり、おまえも…
「…月には、ウサギが住んでるんだよ。」
一瞬、恭弥が何を言ったかわからなかった。
「…は?」
「月にはウサギがいて、餅つきしてるんだよ。」
「餅つき…」
「何?別にいいでしょ。
…僕は自分が見たものしか信じないから。」
なんだか、無償に笑えた。
昔の俺には見つけ出せなかった答えを、恭弥は持っていた。
「はは…なんでウサギなんだよ。」
「日本ではそういわれてるんだよ。」
そのあと、俺たちはキスをした。
キスってこんな温かいモノなんだなぁ…って思った。
その時から、昔あきらめた何かが、動き出した。
それから、俺は他の愛人たちと手をきって、恭弥だけを愛した。
毎晩、月を眺めてキスをした。
一緒に添い寝して、翌朝にまたキスをした。
俺がキスをすると、いつもはあまり感情を表情に表さない恭弥は、はにかんだように笑った。
幸せそうに、笑ってたんだ。