小さなお話し

□先生と僕
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※学パロです





並森中学新任の英語教師であるオレは、ただ階段を昇り続けていた。

授業教室に行くわけでも、職員室に行くわけでもない。


そう…今日もオレの授業をサボりやがった、あの問題児のところに行くのだ。

並盛中にきて1ヶ月、いまだ一度も授業に出てくれないあのワガママな子供のもとへ。




彼は、やっぱりいつもの屋上で寝ていた。



「ひーばーりーっ!」

「…あなたもしつこいよね。」



仰向けに寝転んでいた少年の名前を呼ぶと、まだ大人になりきれてないアルトの声が聞こえた。






並森中学3年生、雲雀恭弥。
並中で最強の不良で、一匹狼。

噂によれば隣町の不良の巣窟である黒曜中学をたった3時間で壊滅させたとか。

もちろん生徒はもちろん先生も校長も彼に逆らえない。





たまたま実家が危ない仕事…マフィアだったオレは、小さい頃から鍛えられていた。


天才的な戦闘センスをもっているといっても所詮中学生だ。
子供に手を出すつもりは無かったのだが、トンファーで殴られそうになったらもちろん相手をするしかない。

愛用の鞭を校内で使うことはできない。
反射的に素手で彼のトンファーを止めたところ、
「君、気に入ったよ。」
と言われたのが、たしかオレがこの中学にきて5日目。




次の日、何故か雲雀のクラスの担任になり、今は校長に呼び出されて「雲雀君を頼むよ。」と言われる始末。

…絶対、雲雀が何か言ったにちがいない。




担任になった以上、こうして毎回彼の様子を見に来るようにしているのだ。




「当たり前だろ。
いちようお前の担任だしな。」

「まぁね。
僕が校長に指名したんだから。」

「…やっぱりお前だったのか。
なんかおかしいと思ってた。」

「だって担任になれば、僕のこと気にしてくれるでしょ?」


…なんだか口説き文句のようだが、間違っても男同士だ。
とわいっても、雲雀は中性的な顔だから学ランでなければ女に見えないこともないのだが。


「今日は校長に言われてるしな。」

「それを言わせたのも僕だしね。」


…それだけ校長は雲雀に弱いんだ。
何か弱みでも握られてるのか。



「…で、雲雀はいつになったらオレの授業に出てくれるんだ?」

「僕は授業に出なくても勉強できる。
授業に出る必要はないよ。」

「はぁ…。
まったく…お前はオレにどうしてほしいんだよ。」

「その言葉を待ってたんだ。」



は?と聞き返す前に、ネクタイを掴まれて下に引っ張られた。

いつのまにか立ち上がっていた恭弥は、唇がくっつくくらいオレに顔を近づけた。



「………っ」

至近距離で彼の整った顔を見るのは、正直心臓に悪い。
長いまつげ、魅惑的に光る瞳。



「ね、先生…」

「な…んだよ。」


相手は男だ。
しかも中学生で教え子。

駄目だと頭の中で何回も繰り返すが、心臓はバクバク音をたてている。







「ねぇ…僕と、殺ろうよ。」




やろうよ…
ヤろうよ…
殺ろうよ!?


ハッとした瞬間には腹にトンファーが入り、オレは屋上のフェンスに吹っ飛んでいた。



「ガハッ……
お、おい、いきなりはねぇーだろ!」

「ふうん…気絶しないんだ。
やっぱり君は、強いね。」



ニヤリと、艶やかに笑みをつくる雲雀。
殺気がマジだ。

さすがにオレでも、素手で相手できるレベルじゃない。



「…ったく。
これだからじゃじゃ馬は…!」


再び向かってきたトンファーを隠し持っていた鞭で受け止めると、驚いたのか雲雀の瞳が丸くなる。


「ワォ。
やっぱり只者じゃないね。」

「これでも普通の一般市民だぜ?」

「君の記録、調べたら全部偽造だったけど?」

「…」

「まぁ、黙ってあげててもいいよ。」


弱みを握られた以上、こっちとしてはどうしようもない。
いざとなったら、並盛から離れて他の中学校にでも行くしかない。


「…条件は?」

「僕と、本気で殺り合おうよ…。」



ゆっくりと息を吐き出す。


「…交渉成立だな。」



鞭で、銀色のトンファーをはじき返した。


























「はぁ、はぁ、はぁ…」

「オレの勝ちだな。」


いくら戦闘マニアでも、オレの生徒だ。

傷はいくつかつけてしまったが、致命傷は与えずに体力だけ削るように彼を追い込んだ。
案の定、彼は膝をついた状態で立ち上がることさえできなくなっていた。


「…っまだ、できるよ…」

「もう終わりだ。
これ以上は雲雀が傷つくだけだ。」

「……」


うつむいたまま悔しそうに下唇を噛む姿は、なんだか可哀相だ。
プライドがかなり高い彼だ…なかなか強かったし、今まで負けたことも無いのかもしれない。


「…ほら、泣くなよ?
保健室に連れてってやるよ。」

「…」

「…雲雀ー?」


まさか、本当に泣いた…?

不安になったオレは、すぐにしゃがみこんで雲雀の丸い頭を軽く撫ぜる。




「……せんせい。」


弱弱しい小さな声。
いつもの凛とした声ではなく、本当に少女のような声だ。

そんな声で「せんせい」なんて言われると、なんだかイケナイ事をしているみたいでドキドキしてきた。



「ひ、雲雀?
大丈夫か?
先生が悪かった…本気になりすぎた。
悪りぃっ。」


必死に声をかけるが、雲雀は下を向いたままだ。



「…」

「ほんとにゴメンな…
痛かったよな?」

「せんせい…」

「ん?」



「バカだよね。」



バキッと音をたてて、こんどは左頬に拳がはいった。

それはもう、最強の一発で。



「ムカツクけど、これで今日はチャラにしてあげる。」

「な…だますなんて卑怯だぞー!」

「騙される変態はどうなの?」

「へ、変態って!」

「『せんせい…』って言っただけで顔を真っ赤にさせて。
あなた女子ウケしそうな顔なのに、ホモなんだね。」

「ちが…てかオレはノーマルだっ」

「どうかな。」


もう興味はないとばかりに、フラフラしながらも雲雀は立ち上がって歩き出した。



「じゃあ、明日の授業終わったら屋上に来てね。」

「おい、ちょっと待て…」



「ちゃんと手当てしないと」って言おうとしたが、彼の言葉で遮られてしまった。






「まあ変態でも、僕は強い人が好きだよ。」



意味ありげにオレの目を見てニヤリと笑うと、彼は学ランを肩にかけたまま屋上から出て行ってしまった。





「…おいおい、だから相手は男だって…。」




ハハハと笑いながらも、明日も此処に来ようと思っている自分がいた。





++++end++++



一度は書いてみたい学パロ…

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