小さなお話し

□消えない残像
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僕たちが初めて会ったのは、何年前だろう?











「あんまりうるさいと、かみころすよ。」



思えば、小さいころから人と接するのが嫌いだった。

保育所でも幼稚園でも、僕は孤立していたらしい。


親に連れていかれた病院では、何かの病気と判断された。

父も母も必死に僕に優しく接したが、僕の顔色をうかがってばかりの母親に何も感じられないまま。
変わらない僕に両親は泣いてばかりいたが、疲れたのか僕を無視するようになった。

正しい選択だったと思う。
だって、僕は今だにあの人たちに何の愛情も無いのだから。

小学校の頃に家を出て外国に行ったまま、今じゃ銀行口座に生活費を振り込んでるだけだ。
そんな金額くらい、風紀委員長である僕には必要ないのにね。

毎年きていたバースデープレゼントだって。
変わりにメッセージカードになって、そして何も来なくなった。




…人間なんて、そんなものだ。

都合の悪いことだけ忘れて、大切だったものだって時間がたてば消えていく。



そんな世界で、自分以外を信じられないのは自然なことじゃないか。




信じられないのなら一人でいい。

孤独を人は怖がるけど、僕にとっては唯一の自分だけの空間であり安心できるものだった。



今までもこれからも、それでよかったのに。










「…出てって。」

「いいじゃねーか、もうちょっと。」

「部外者は立ち入り禁止だよ。」

「うぅ………。」

「…何その反応。」

「オレってまだお前の中で『部外者』なのかと思ってさ。」

「当たり前じゃないか。」



僕か、僕じゃないか。
僕の中ではそれだけの分類しかないんだよ。

君は僕じゃない。
したがって、君は他人。



「そりゃあ師匠とか先生とかはまだ無理かもしれねぇけどさ。
せめて友達とか…。」

「不可能だね。」

「オレの中では、大事な弟子なんだけどなぁ。」



彼はいつも太陽みたいに笑う。

…ほら、今だって。

こんなふうに僕に向かってまっすぐ笑うのは、君が初めてだよ。

そうやって君は、無邪気に僕を傷つける。



「弟子、ねぇ。」

「おう!
一番弟子だ。」



じゃあ僕の中の君は?

他人?友達?弟子?



「…ヤダ。」

「いいじゃねーかっ!な!?」



そんなふうに気安く僕に触れないでよ。

君が隣に座る瞬間
なにげなく肩を組む瞬間

そのたびに僕は呼吸をするのが苦しくなる。



「嫌だ。」

「まぁ今はまだいいけどなぁ。
じゃあオレ、もう行かないと。」

「今日はしないの?殺し合い。」

「な、殺し合いって…。
修行はまた今度な。
もともとお前の顔を見るために寄っただけだから。」



とめてよ。

君の一言が、『自分』と『他人』で構成されてる僕の世界を壊すんだ。

僕の世界に、君なんて必要なかったのに。



「もう来なくていいよ。
…忙しそうだし。」

「弟子に気を使われるほどオレはヤワじゃねぇよ。
心配するな。」

「心配なんてしてないよ。」



あなたは僕を大切に思ってくれているんだろう。
でも、あなたは優しすぎる。
誰にでも。


そんなの、わかってるよ。


その優しさがあの沢田綱吉たちに向けられるものと同じだってことくらい。


たまにTシャツの首元ギリギリに赤いキスマークがついてるのも。
そうとう遊んでるって話も、あなたの部下から聞いたことあるしね。

そして僕は、そのうちの一人としても見てもらえてないことも。





でも、それでも僕はもう戻れない所まで来てしまっているのかもしれない。



「じゃあな。」



あっけなく簡単に消えてしまう。

わかっていながら、これから毎日僕は君が消えたドアを見つめ続けるのだろう。


胸の苦しさに耐えながら、またあの笑顔を待ち続けるんだ。




++END++



片思いヒバリさん。

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