短編

□マリッジブルーはいらない
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明日は、私の結婚式らしい。


らしい、というのも実感が湧かないせいなわけで、しかもその当事者は自分だというのにどこか他人事みたいに思えてしまう。だって明日のことを考えていたら恐いような嬉しいようなくすぐったいような気持ちになってしまって、どうしようもなくなるのだ。今までを振り返れば、つい昨日のことのように思えることばかりだけど懐かしくもあって戻りたいようなもう少しそのままでいたいような気持ちも見え隠れする。
(胸の奥がチリチリする。)


というか、目の前にどうにも落ち着くことの出来ていないマダオがいるせいもあると思う。下手をすれば私よりソワソワしている。


「銀ちゃん」
「……」
「銀ちゃん」
「……」
「おいコラ聞いてるアルかそこの駄目天パ」
「俺は駄目天パじゃねぇぇぇぇ…」
「泣くなウザい」


いつもの三倍くらい死んでる銀時の目は私を見ては、笑いかけたり潤み始めたり怒ったようになったりと忙しい。
隣に座る沖田を横目で見やる。結婚式前日ってことで万事屋に来ていたのだ。


「だいたいよぉ、お前らいっっっつも喧嘩ばっかしてたろうが」
「嫌よ嫌よも好きのうちってやつでさァ」
「今だけそういうことにしといてやるヨ」
「そんなんで結婚しちまっていいのか神楽ああああ!」
「今更うるさいアル」
「バカヤロー。結婚だぞ?一生こんな税金泥棒なドS王子と一緒だぞ?ほんとお前わかってんの?後悔すんなよ?いやいやいやいや別に銀さんはお前の心配なんかしてねぇけどな」
「銀ちゃん…、ありがと」


それでも明日から私は彼と一緒に歩むと決めたのだ。
寂しさを隠さない銀時の傍まで行って、ふわふわ頭を抱きしめた。この感謝がどうか伝わるように。沖田が顔をしかめたのが見えたが、今は許してもらおう。


「銀ちゃん、」
「……」
「返事してヨ」
「、なに」
「あのね、今まで、ありがとう。これからもよろしくネ」



腕のなかで鼻水を啜る音が聞こえて、私は少し笑った。しばらくしてからまた沖田の隣に戻ると、銀時は泣き顔を見られたくないのかすぐに立ち上がった。それもそっぽを向いたままで。


「銀さんは、風呂へ行く。沖田くん、」
「はい?」
「ここにいる間は神楽に手出ししないように」


涙声でそれだけ言って足早に風呂場へ向かった。沖田と顔を見合わせて笑う。時々風呂場から漏れるおっさんの嗚咽は聞かないでやろう。



「旦那は涙脆いんだねィ。初めて知った」
「銀ちゃんは結構泣き虫ネ」
「なぁ神楽、」
「なにアルカ」
「後悔しねぇ?」
「なにが?」
「俺と、一生一緒だぜィ?」
「沖田と一生一緒。素晴らしいネ」
「そか」
「ウン」
「あとさ、名前呼べよな」
「え」
「お前も沖田になるんだぜィ?」


(そっか。私、お嫁さんになるんだ。)

「…そうご」


呼んだら急に実感が湧いてきて、胸の奥が熱くなった。
(ポカポカする。)


「……」
「なんでお前が赤くなるアルカ」
「いや、なんか恥ずかしいっつーか。かわいすぎ…」
「はっははは恥ずかしいのは私アル!この邪な腕を外すヨロシ!」
「うん、無理」







(結婚前夜)



end.


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