短編

□未来予想図
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パピーから手紙が来た。
手紙には、三日後迎えに行く。と書かれていた。その意味するところが何かわからないほど私は馬鹿ではなかった。
─パピーと宇宙へ旅立つ日が来てしまったのだった。




神楽。襖の向こうから、私の名前を呼ぶ声がする。私の大好きな声がする。いやだいやだ。呼ばないで。来ないで。だってまだ、私ここにいたいもん。


「神楽」
「…やだ」


手紙を読んでから、私は一人押し入れに引きこもった。ここから出たら銀ちゃんに追い出されてしまうと思った。もうこの場所が私の居場所じゃなくなる気がした。銀ちゃんから離れなければいけないのだと思った。ずっとここにいたいんだもん。


「親父さんのことすきだろ?」
「……」
「エイリアンハンターが夢だろ?」


夢だよ。だいすきなパピーと一緒に宇宙を旅するの。一番の夢だった。パピーもすき。禿げてるけど。闘うのもすき。自分を見失いそうで少し怖いけど。でも。でも。ここにずっといるのもいいなって。


「神楽、黙ってないで、思ったことを言え」
「……」
「言うだけでいいから、」


銀ちゃんのいつもより優しい声がする。呆れもせず飽きもせず、押し入れの前で待ってくれているのがわかる。

「……あのね、」

やっと出た声は自分でも驚くくらい小さくて震えていた。


「あのね、行きたくない、アル」
「なんで?」
「だって、行ったら帰る場所なくなっちゃうもん。ここがいいヨ。銀ちゃんのとこにいたいんだもん。追い出さないで、」


何がなんだかわからなくなった。思ったままに言ったらこうなった。


「神楽、俺のこと好き?」
「なっ…」
「好き?」

なんで今そんなこと聞くのか。どういう意味の好きかなんて、今の混乱した頭でももちろんわかってる。返事を待つ気配に急かされて吐き捨てるように言った。


「…好きっ」
「ん。そこから出て来て聞かせて」
「…銀ちゃんいじわる」
「うん」


逆らえないのは、好きだからなのと早く安心したかったからだと思う。早く、いつもみたいに笑ってほしかった。
静かに襖を開ける。
いつものやる気のない顔が目の前にあった。

「好き?」
「うん、好きヨ」
「銀さんも、お前が好きだよ」
「…知ってるアル」
「じゃあ次、お前が帰ってきたらさ。そのままお嫁においで」
「へ……?」


話が突飛すぎて、一瞬思考が吹き飛んだ。何を言われたかわからなかった。
銀ちゃんのいつものちょっと寂しそうな笑顔は変わらない。


「俺は知っての通りこんなんだし、マダオだし、糖尿予備軍でお前より年食ってておっさんで、もしかしたら他の病気でぽっくり死ぬかもしんないしってあれ、なんか泣きそうだぞ?うん、それに大変不本意だがお前は多分俺より強いし、俺のが寿命的に先に死ぬだろう。お前を一生守ってやることは誓えないけど、そうあれたらいいと思う。」


銀ちゃんは強い眼差しでゆっくりと息を吸って、私は息を飲んだ。


「だから、おいで」
「……っ」



嬉しくて、嬉しくて、声がでなかった。
だいすきな大きな手が頭を撫でてくれて、しばらくしてから、ありがとう、と掠れる声で言った。そして、いってきます、も。
私、ここに帰ってくるから。





きっときっと、ずっと、ずっと、夢見てたの。
あなたとずっと、いっしょにいる
を。

(それまで、待っているよ。)(帰るから、待っていてね。)




end.

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