Novel
□ピアノの音色
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少年と少女が一つのピアノを弾いていた。
日は沈みかけていた。
夕日が二人の顔を照らしているからだろうか、二人とも顔が赤かった。
一人の中学生くらいの少年がスーパーの袋を持って歩いていた。
この少年の名は枢夜槻(たるゆつき)。黒い綺麗な色で、さらさらな髪をしている。
夕飯の材料を買い終わったスーパーの帰り道だった。
散歩がてら、いつもと違う道を歩いていた。
ある一見の家の前を通った。白いかべで、全体的に洋風だった。
そこで、夜槻はピアノの音を聞いた。優しい音色だけど、少し悲しい感じにも聞こえた。
ピアノの音を聞きながら、向こう側から来る四十代の男性とすれ違った。
夜槻はそんなに気にしなかった。
その日から、二日ほどたったある日。夜槻は新聞を見ていた。
(えっ、この人…。)
小さな記事だったが、写真があってすぐに気がついた。
二日ほど前…、そうピアノの音を聞いたあの日、すれちがった男性が死んでいるのが発見されたらしいのだ。
自宅で八時ごろ、友人が発見した。死亡推定時刻は六時半で、死亡原因はまだ分かっていない。
夜槻は新聞を机の上に放り出した。
「ただの、偶然だよな…。」
ボソッと言った。
なんだか気になって、あの家に向かって、歩いていた。別に用はないけれど、ただ散歩がてらだと、自分に言い聞かせながら…。
夜槻が行くと、やっぱりピアノの音が聞こえた。
夜槻は、道ばたに止まって窓が開いている部屋を見た。この前は気がつかなかったけれど、まるで音がちゃんと外に聞こえるようにするため、窓を開いているように思えた。
周りは別に何もないようなので、帰ることにした。
今度は二十代くらいの女性とすれちがった。
次の日、新聞を見ると、昨日すれ違った二十代の女性が死体で発見された。
(まさか…。)
夜槻はその新聞を持って学校に向かった。
自分がまきこまれそうな気持ちがした。いや、もう巻き込まれているのだろう。
夜槻は止まって上を見上げた。
「僕でよければ、受けて立ちますよ。僕にとっては悪魔の神様。」
夜槻はクスッと笑った。
放課後、夜槻は一つの部室に向かって歩いていた。もちろん、例の二つの新聞を持って。
探偵部の部室のドアの前で止まった。夜槻は、ため息をついてからドアをノックした。
コンコン。
「はーい。どうぞ。」
少女の軽快な声がした。
「どういう運命か、またあんたに会うことになってしまってね。」
夜槻はドアを開けると同時に言った。
少女はムッとした。
「私は『あんた』じゃなくて株基沙頓(くいもとさとみ)です。だいたい、いやな風に言わないでください。」
夜槻は軽く笑って答えた。
「ああ。ごめん、ごめん。」
沙頓は読んでいた本を閉じた。
そして、笑顔で言った。
「なんのご用ですか。」
夜槻は沙頓の顔を見て、椅子に座りながら言った。
「笑顔なんか見せたって、仕方がないよ。僕は沙頓サンに恋愛感情はないから。」
沙頓が棚に置いてあったスプーンを、夜槻に向かって投げた!
夜槻は簡単に避けて、新聞を机の上に置いた。
「この記事、知っているよな。」
沙頓は少し記事を見てから頷いた。
「はい。それが?」
沙頓が夜槻を見ると、夜槻は真剣な顔だった。
「この事件について、調べてほしい。それと…。」
言いかけた時、ふと沙頓を見ると、沙頓は満足の笑みだった。
夜槻は少しおどろいた表情をした。
「それと?」
沙頓が笑みを含みながら問いかけて、夜槻は我に返った。
「あっ。それと椙矢間(すぎやま)って家の人を調べてほしいんだけど。できるか?」
沙頓は地図帳を取り出した。
「場所が分かりますか?」
夜槻は、地図張を受け取り、めくり始めた。
地図帳を完全に開き、机の上に置くと、夜槻の長い綺麗な指で一カ所を指した。
「ここ。」
沙頓は考え込んでから言った。
「わかりました。」
夜槻は驚いた顔をした。それに対し、沙頓は不思議そうだった。
夜槻は一息ついてから言った。
「なにか言うかと思ったら、簡単に引き受けてくれたから…。」
沙頓はポンッと手をたたいた。
静かな間があった…。
今度は棚に置いてあったフォークが夜槻めがけて飛んできた!が、夜槻は再びたやすく避けた。
「もう調べません!」
沙頓は腕を組んで、夜槻に背中を向けた。
その時、ボソッと。
「明日のお弁当は、中華にしよう。エビチリとチャーハン。デザートには、はちみつがけの揚げパンをつけようかな。」
誰が言ったかなど、言わなくても良いだろう。夜槻だ。
沙頓の心が揺らぐ。
「わ、わかりました」
声は少し嫌そうだったが、振り向いた沙頓の顔はまったくの正反対だった。
「私に、まかせてください。明日中にまとめあげます。」
目は光り、是非!という感じだった。
夜槻はフッと笑った。