Novel
□「ヒマツブシ」
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「なーに、見てるの?」
いきなり部屋から声がした。青年は、声のする方へと顔を向ける。そこには灰色の髪をした少女が立っていた。
「勝手に部屋にあがらないでくれないかな」
少しキツ目な声で言う。しかし少女は退かない。青年が人を拒絶するのは今に始まった事ではない。慣れというやつだろう。
「ノックにも気づかない程、何かを見ていたのはそっちでしょう」
お詫びも言わずに、青年の側へやってくる。
「見た目は少女なんだから、もう少し可愛らしくできないのかい?」
そう、見た目は少女だが年齢はお婆さん。話し方や歩き方は大人の女性だ。
青年は少女、いや彼女から目を離した。今は何処にも視点は合っていない。なのに彼女は見抜いた。
「水鏡?ふーん」
青年にとって居心地が悪い雰囲気になってしまった。彼女を睨み付ける。
「あなたが水鏡を見ているなんてね」
下界と言うのだろうか、他界と言うのだろうか。水鏡はここではない世界を見せてくれる。
「いけませんか?」
彼女は青年の問いかけに対して意味深く笑う。青年が他人に興味を持つ事なんてなかった。
「別に。ただ、珍しいなーと」
そんな青年が水鏡を見るなんて。雨が降りそうだ。親しい彼女でさえ、こんな不思議なことにはあまり巡り会えない。
「あなたが勝手に置いていったのでしょう。たまたま目に入っただけです」
ため息をつきながら弁明する。間違ってはいない。その後、目が離せなくなっただけだ。
「で、何を見ているの?」
彼女が水鏡の中をのぞく。青年も視線を向ける。そこには先ほどの少年が映っていた。