保管倉庫
□しるし。
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某日、深夜。
IDAAラボ研究室にて。
「………よく音も立てずに入ってこれるな、淀」
左手に持ったペンを紙に走らせながら、振り向かずに言う鴨川。
「……物音一つ立てていないのに、私に気づく貴方も貴方だと思いますが?」
論文を書くのに夢中な鴨川を驚かせてやろうと思っていた淀。
先に気付かれ、少し悔しそうな顔をする。
鴨川はペンを止め、振り返る。
「気配、というものがあるだろうが。……なんだ、その顔は」
「別に何でも有りませんよ。………ん?」
此方に顔を向けた鴨川を改めて見て、顔をしかめる。
「……一体、どうしたんです?貴方は右利きだった筈でしょう」
「ん?ああ、元々左利きだったんだが子供の頃に直されてな。今じゃどちらでも字は書ける」
ペンを持った左手を得意気に動かす。
「普段は右で書いてるがな」
「それは便利な事で。…で、どうして今日は左で書いてるんです?」
「……気分転換、だ」
「一呼吸置いてる所が怪しいですなぁ」
淀は鴨川の右手を見ようとするが、右手は淀からは見えない様に椅子の後ろへと隠されていた。
淀は鴨川に近づいていく。
「一体何を隠していらっしゃるのでしょうかねぇ?」
「お、お前には関係のない事だろう!」
「そう言われるとさらに気になりますね。ほら、お見せなさい」
「やっ、止めろっ!」
抵抗する鴨川だったが、淀に右腕を掴まれてしまう。
淀は、右手を椅子の影から引きずり出した。
「…………」
それを見た淀は、無言で白衣とシャツの袖を肘辺りまで捲り上げる。