ある秋の晴れた昼下がり。
季節の移り変わりは寂しいながらも鮮やかで、ヒラリヒラリと散っていく紅葉をシンは何処か満足げに瞳を細めて見上げていた。
向こうの世界では特に何も思わなかった季節の風景、小鳥の囀り、自然の息吹。
ちゃんとこの世界は生きている…作られたモノではなく、此処に居る人達にも体温があり自分と何も変わらない。

そう…ちゃんと人々は生きて、目の前で死んでいく。

そんな事が脳裏を掠めると先程まで見ていた紅葉が血の色のように思え、眉間に皺を寄せるとそれから視線をずらした。
俯いたその表情には苦悩、そして無力な自分への苛立ち。


「…ハァ。後で知盛と手合わせするか…引き摺ってでも無理矢理」

「クッ…随分、手荒な真似をするよう…だな」


ただの独り言のつもりで言った言葉に返答が来た事に、シンは瞳を大きく見開いた。
その事にも驚いたが、それよりも驚いたのは独特な喋り方をするその声が耳元で囁かれたという事。
条件反射で右手を強く握り締めれば後ろを振り向き様、相手の顔へ肘を目掛けて勢いよく振り上げる。
だがその攻撃を予測していたと言わんばかりに、相手は後ろへ片足を退いて避けた。


「…の野郎、いきなり背後に立つな耳元で喋るなっ!!」

「俺が背後に立てたのは…自分のせい、だろう?」

「っ…そのニヤけ顔に一発―……」

「はいはい、落ち着け。喧嘩両成敗」


今にでも殴り掛かりそうなシンと、彼の反応を見てニヤニヤと笑んでいる知盛の間に将臣が入った。
渋々握り拳を解いて腕を下ろせば、知盛から視線を外して蒼い髪の青年を見る。
その顔は呆れながらも柔らかな微笑が浮かんでいた。


「シン。今から出掛けようぜ」

「………は?何だよ急に」

「さっさと行くぞ……寒い」


急な誘いに頭が付いてこれていないシンに構わず二人は歩き出す。
訝しげに眉を寄せてながらも一歩足を踏み出した瞬間、前を行っていた二人が立ち止まって―…


「ほら、置いて行くぞ」


手を差し伸べてきた。
あの知盛もダルそうながらも、掌をこちらに向けている。
緩く瞳を見開いてその二つを凝視していたシンだったが、徐々に表情を緩めて誘われるままに足を動かした。
掴むのはその暖かな手。


「……男と手を繋いでも嬉しくないっつー…のっ!」


繋いだ瞬間に両方の手を下へと引けば、バランスを崩した二人がお互いの頭同士をぶつけた。
まさかこうも上手い具合にいくとは思っていなかったシンは声を上げて笑い、痛みに唸っている二人の前を歩く。
暖かかった二つの大きな手。

まだ暖かい体温…。


(“まだ”じゃなく“ずっと”)


青い青い空を見上げて思う。
それは新たな決意。
掌に残る温もりを抱いて―…

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Reにレスさせて頂きます´`*



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