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□ばたばた
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「君さぁ、いい加減。勘弁しなよ」


無理だァアアア!!!!!




―ばたばた―



お昼休みが終わり、5限目の授業が始まった。
お昼を食べた後の眠気最高潮な授業に限って、大嫌い―まぁ、勉強なんてどれも嫌いだけどね―な数学‥‥‥
沢田綱吉にとって、数式なんてものは呪文のようでしかない。
綱吉はふぁ〜と大きな欠伸をした。
カリカリとクラスメイトが黒板を板書する音がちょうど良い子守歌となり、綱吉を眠りの世界へと誘おうとしていた。


そんな平和な授業中。
突然、ブチッという音とともに放送が入った。


『2年、沢田綱吉。至急、応接室に来るように。繰り返す―――』


ザワザワと教室が騒ぎだす。
しかし、当の本人は未だ夢の中。
くうくうと寝息を立てながら、まったく気づいていない。


「ツナ。お呼びだぞー」


席が近かった山本が肩を揺する。


「十代目!! また、雲雀のヤロウが何か仕掛けてくるかもしれません!! 行くことないッスよ!!」


獄寺の叫び声でやっと、意識が浮上した綱吉は寝ぼけ眼のまま、ぼへーと獄寺を見た。
こしこしと目を擦る姿は、殺人的に可愛らしく獄寺は真っ赤になって鼻を押さえた。


「じゅ、十代目。可愛すぎッス」


そんな獄寺の姿を余所に、完全に意識を覚醒させたそのとき――


『沢田綱吉、遅い。早く来ないと、咬み殺すよ』


容赦のない、風紀委員長様のお声が届いた。

ガタン―という音を立てて立ち上がると、綱吉はサーと真っ青になった。


「うわぁああ!!!!!」

「委員長様からのご指命だぞ、ダメツナー」


クラスメイトのはやし立てる声を背に、バタバタと教室を出ていた。


「じゅ、十代目ぇ〜」

「ハハ。愛されてんのなー」


山本は、暢気に親友を見送った。




バタバタバタ‥‥‥ドテッ

応接室の外から聞こえる足音に耳を傾けながら、紅茶の用意を始める。


「まったく、危なっかしい」


急いでいるのであろう、授業中の廊下に響く足音に、雲雀は笑みを浮かべた。
程なくして、バタンッという音と一緒に可愛らしい草食動物は入ってきた。


「遅いよ。綱吉」


優雅にソファーでお茶を飲む、雲雀を見ながら、ぜぇぜぇと荒い呼吸を整えようとする。
余程急いで来たせいか、大きなあめ玉のような目には涙が貯まっていた。


「す、すみません!!」


呼吸が落ち着いた綱吉は、咬み殺されるのを覚悟して頭を下げた。
雲雀は、こっちに来るよう言うと、顔を上げようとしない綱吉に苦笑した。


「足、大丈夫? さっき、転けてたでしょ」


優しく声をかけると、綱吉はおずおずと顔を上げた。
怒っていないことが分かると、あからさまにほっとしている綱吉に、ムッとした雲雀は、悪戯っ子の顔をして言ってやった。


「君、運動神経ないんだから、気を付けなよ」

「うー。気を付けます」


情けない顔をする綱吉に、座るよう勧める。
綱吉は雲雀と反対のソファーに座った。
雲雀は綱吉に紅茶を入れてやりながら、お茶請けのクッキーを勧める。
綱吉がここに来るようになってから、置くようになった甘いお菓子。
雲雀自身は、あまり好んで食べる方ではなかったが、嬉しそうに食べる綱吉が見たくて、色々な物をサーチしていた。

サクサクと幸せそうに食べる綱吉を、じっと見つめる。


「あの、そんなに見られると食べにくいんですけど」

5枚目のクッキーに手を伸ばそうとして、雲雀の視線に気が付いた綱吉は、手を引っ込めた。


「おいしい?」


雲雀は、視線はそのままにクッキーに手を伸ばす。

「あ、はい!! とっても、おいしいです」


にっこりと笑う綱吉に、満足げに目を細めると、雲雀は手に取ったクッキーを綱吉に向けた。


「はい」

「あ。ありがとうございます」

綱吉は、向けられクッキーを手で取ろうとする。
しかし、雲雀はスッと手を上に上げてしまった。


「あの、雲雀さん?」

「違うでしょ」


綱吉の口元までクッキーを持っていくと、雲雀は口角を吊り上げた。


「食べろって言うんですか!?」

「嫌なの?」


ほら、と言うように更に綱吉の方へ差し出す。

綱吉は、口を開けるとパクリとクッキーを頬張った。
雲雀は満足げに目を細める。


「おいしかった?」


雲雀は、クッキーを持っていた指をペロリと舐める。
綱吉はわあわあと真っ赤になった。


「と、ところで!! 雲雀さんは、オレに何か用があったんですか?」


悠々と紅茶を飲む雲雀にそう切り出す。

ああ、忘れてたよ。
と言って、雲雀は席を立つと、執務のときに使う立派な机の方へ行ってしまう。
ごそごそと、引き出しから何かを取り出して、こちらに戻ってきた。


「何です、それ?」


口をもごもごとさせながら、綱吉は尋ねる。
雲雀は紙袋に手を入れと中身を取り出した。


「う、ウサ耳!!!!???
ゲホッゲホッ‥‥‥」

「君、大丈夫?」


クッキーを喉に詰まらせたらしい綱吉に、雲雀は首を傾げた。


「な、ななな何で、ウサ耳!? てか、何でそんなもん持ってんですか!?」

「君が、兎だから」

「そのネタ、まだ引っ張る気ですか‥‥」


ウサ耳を持った雲雀――どう考えても結びつかない。しかも、ご丁寧に綱吉の髪と同じハニーブラウンのウサ耳だったりする。


「それ、どこで仕入れたんです?」

「‥‥草壁に買ってこさせたんだよ」


紅茶を飲もうとしていた綱吉は、危うく吹きそうになるのをこらえた。


「草壁さん。可哀想‥‥」


ぽそりと思わずそう漏らしてしまった綱吉は、ハッとして雲雀の方を見た。
そこには、にっこりと、それはもうお美しい顔に綺麗な笑顔を作って、更に眩しさを増した風紀委員長様の顔があった。
激しく後悔した綱吉は、ソファーの上で後退った。

「ひ、雲雀さん。何でそんなに身を乗り出してるんです?」

「ん? これを綱吉に付けようと思って」

「やっぱりぃいい!!!」


綱吉は、雲雀から離れようとソファーの端っこまで後退る。


「何で逃げるのさ」


雲雀はウサ耳を持ったまま、すくっと立ち上がるとソファーの端で丸まった草食動物に歩み寄った。


「そりゃ、逃げますよ!?」

「きっと似合うよ?」


ひぃ!!と竦み上がった綱吉は、転げ落ちるようにソファーから立ち上がると、ドアの前まで走ろうとする。
しかし、この並外れた運動神経を持つ雲雀にはささやかな抵抗にしか過ぎず、パシッと腕を捕まれてしまう。


「何で? コレ付けるだけだよ」

「雲雀さん!! 絶対それだけじゃすまさないでしょ!!!!」


綱吉は腕を振り解くと、再び逃走を試みようとする。


「‥‥あぁ。そうだね、何しようか?」

「墓穴掘ったァアアア!!?」


どうやらこの人は、
“綱吉にウサ耳を付ける”
しか考えていなかったようだ。


「うん。じゃあ、付けなよ」
「嫌ですゥウウウ!!!」


そう叫びながら、応接室を飛び出した。


「逃がさないよ。」


そうして、綱吉と雲雀(手にはウサ耳)の逃走劇が始まっるのだった。

教室は6限目の授業のまっただ中。

「嫌だぁあああ」

という叫び声とともに走るダメツナと、

「いい加減にしなよ」

と良いながら追いかける(手にはウサ耳)風紀委員長。

全力疾走する二人をみた(ほぼ全校)生徒は、見てはいけないものを見てしまったと言うように、ひたすら授業に集中するのだった。

後に、並中七不思議として密やかに伝えられていった‥‥‥



そして翌日。
校門での検査では、頬が叩かれたように赤くなった風紀委員長様の姿があった。
そして、心なしか楽しそうな雲雀様の後ろに、隠れるウサギの姿があったとか‥‥‥


END。
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